ずっと読んでいたくなる! シリーズもの作品5選
1月になりました。新年を迎え、これからの一年をどのように過ごそうかと考えている方も多いのではないでしょうか。
そんな時期に、一年を通して何か挑戦してみたいと思ったら、少し長めのシリーズものを読んでみるのはいかがでしょう。
この記事で取り上げるのは1作目となる作品ですが、もし気に入ったら、2作目3作目、もっと次へ……と読み進んでみてください。長く楽しめるシリーズものならではの没入感に、きっと夢中になれると思います。
今回はシリーズ通しての読書時間の目安も掲載しますので、「これなら読める!」、または「たくさん読みたい!」と思った方は、ぜひ挑戦してみてくださいね。
第1回メフィスト受賞「S&M」シリーズ『すべてがFになる』 森博嗣・講談社(1996)
【あらすじ】
絶海の孤島に位置する最先端の研究施設に隔離されている研究者、真賀田四季。ある日彼女と面会した西之園萌絵は、後日大学の助教授犀川創平をともなって再び孤島の研究施設を訪れる。そしてそこで、ウェディングドレスを身にまとった真賀田四季の死体が現れた。絶対に出入りすることができない密室で、どうやって真賀田四季は殺されたのか、そして誰が彼女を殺したのか?
孤島という舞台でおこなわれる殺人を描いた、ミステリーの用語でクローズド・サークル(「嵐の孤島もの」と呼ばれることも)というジャンルに入る森博嗣のデビュー作です。謎めいたタイトルですが、なぜこのようなタイトルなのかも含めて、犀川・萌絵コンビの推理を体験してください。
おすすめポイント
この作品は、衝撃的なミステリーを読んでみたい、または理系の要素にどっぷりと浸かってみたい、という方におすすめです。作者は実際に理系分野を専門とする科学者なので、作中に展開されている理論に最初は慣れないかもしれませんが、それをひとつずつ乗り越えていくと、衝撃の真相が待っています。
理系の思考回路と文学というスタイルは相容れないのでは? というイメージがある方にも、ぜひ読んでほしいシリーズです。科学と文学が融合するとこんなにもおもしろい! と感動することができるでしょう。
じつは筆者が初めて読んだミステリーがまさにこの『すべてがFになる』でした。ミステリー初心者にも読破できる秘密は、ひとつひとつの理論が丁寧に説明されているところだと思います。なので、文章を丁寧に読んでいくことに慣れていきたい、という方にも読んでみてほしい作品です。
理系と聞くと難しそうと思ってしまうかもしれませんが、作者の森博嗣はそこかしこにユーモアも散りばめてくれているので、肩肘張らずに「おもしろい本を読むぞ」という気持ちで読み始めてみてくださいね。
読書時間目安:『すべてがFになる』8時間半~9時間半程度、シリーズ通して94時間~100時間程度(『すべてがFになる』522ページ、シリーズ全10冊合計5677ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「メフィスト賞」って?
講談社主催の公募新人賞です。未発表のエンタテインメント作品を対象に、下読み(作品選考のとき、選考委員のまえに作品を読んであらかじめ作品を絞り込んでおくこと)をせず、直接編集者が作品を読んで選考するという特徴があります。結果は雑誌『メフィスト』で発表されます。
「S&Mシリーズ」の始まりである『すべてがFになる』は、1996年の第1回で受賞しました。ゲームやテレビドラマ、テレビアニメなど多くのメディアで展開され、人気を博しています。
2014年国際アンデルセン賞受賞「守り人」シリーズ『精霊の守り人』 上橋菜穂子・偕成社(1996)
【あらすじ】
女用心棒のバルサが助けた子どもは、皇国の皇子だった。皇国の妃からその皇子チャグムを託されたバルサは、チャグムを守るために戦い始める。精霊の卵を宿したチャグムを狙って差し向けられる刺客や、襲い来る異界の魔物たち。はたしてバルサはチャグムを守り切ることができるのか?
人々が暮らす世界と、もうひとつの世界という、ふたつの世界が重なり合っているという世界観のなかで繰り広げられる壮大なファンタジーです。作者は文化人類学を研究してきた学者でもあるので、その世界設定は非常に綿密でリアリティにあふれています。日本のファンタジーと言えばという話題にもタイトルが挙がることの多い作品ですので、この機会にぜひ!
おすすめポイント
この作品は、日本を代表するファンタジー作品を読んでみたい、または心に響くファンタジーを読んでみたい、という方におすすめです。子ども向けと思われていることもありますが、どの世代の人が読んでもおもしろいシリーズですので、ぜひ心躍るファンタジーを体験してみてください。
20年以上かけて書かれた大河的なシリーズです。1作目からすでに引き込まれてしまう魅力がたくさん詰まっており、夢中になって読むことができます。世界観にどっぷり浸かって、バルサたちと一緒に旅をしている気持ちで読むのがおすすめです。
舞台となっている世界も壮大なものとなっているので、繰り返し読んで広大な世界から新たな発見を探してみるのも楽しみのひとつです。
また、外伝や短編集もあり、物語が終わってからも楽しみが終わらないのがこのシリーズの特徴。さらに、ファンブックではありますが、『バルサの食卓』という本も発行されています。こちらは作中に登場する料理を再現し、レシピも掲載している本となっているので、バルサたちが食べた料理を実際に作って楽しむことができます。
「守り人」シリーズの世界観に魅了されたら、その世界の料理も楽しんでみては?
読書時間目安:『精霊の守り人』6時間~7時間程度、シリーズ通して60時間~67時間程度(『精霊の守り人』360ページ、シリーズ全10冊合計3613ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。外伝や短編集などを除きます。
「国際アンデルセン賞」って?
作家の全業績のうち、「児童文学への永続的な寄与」に対して贈られる賞です。別名「小さなノーベル賞」。現在は作家賞と画家賞の2つの部門が存在します。
「守り人」シリーズの始まりである『精霊の守り人』は、2014年に受賞しました。数々の児童文学賞のほか、2023年には「守り人」シリーズとして吉川英治文庫賞も受賞しています。テレビドラマなどの映像化もされています。
第65回菊池寛賞受賞「陰陽師」シリーズ『陰陽師』 夢枕獏・文藝春秋(1988)
【あらすじ】
平安時代。人もこの世ならざるものもすぐそばにいたころ、陰陽寮に属する陰陽師安倍清明という人物がいた。彼は都にはびこるこの世ならざる難事件を、親友である源博雅とともに解決へ導いていく。死霊、生き霊、鬼、あやかし……さまざまなこの世ならざる存在が引き起こす難解な出来事を鮮やかにひもとく安倍晴明の活躍、ぜひご覧あれ。
平安時代に実際にいたであろうと思われている、安倍晴明という人物が中心となって活躍する伝奇小説(歴史的背景を持ち、怪異譚や不思議なエピソードを含んだ小説を指す文学のジャンル)です。陰陽師や式神、あやかしなどの言葉を聞いたことがあり、且つそれにわくわくしたことのある人ならば、胸をときめかせながら読むことができるでしょう。清明と博雅の軽妙な掛け合いにも注目です。
おすすめポイント
この作品は、歴史とファンタジーの混ざり合ったおもしろい作品を読みたい、という方におすすめです。筆者も「歴史にはロマンがあり、ファンタジーにはわくわくが詰まっている!」と思う人間なのですが、歴史とファンタジーが混ざり合った作品ともなれば、時間を忘れて夢中になってしまうことも。この「陰陽師」シリーズもそのような作品となっています。
全体として非常に読みやすいのですが、その理由のひとつに会話のテンポの良さがあります。平安らしい言葉選びでありながら、テンポ良くスムーズに進んでいくので、堅苦しい印象はありません。
また、メインの登場人物である清明と博雅の掛け合いも見所のひとつ。ふたりの絶妙な距離感や軽妙な掛け合いに、思わず笑みがこぼれてしまう場面も。
歴史ものだと思って構えず、この和風ファンタジーを読んで、「もしかしたら本当にこういうことがあったのかも……」と想像してわくわくしてみてくださいね。
読書時間目安:『陰陽師』5時間半~6時間半程度、シリーズ通して100時間~120時間程度(『陰陽師』336ページ、シリーズ全19冊合計6019ページ)
※ページ数は、18巻目まで文庫版でのページ数です。19巻目のみ単行本でのページ数です。
「菊池寛賞」って?
日本文学振興会が主催する、さまざまな文化の分野における素晴らしい業績を上げた個人や団体を表彰する賞です。菊池寛の声がけで始まった賞で、最初は文学のみだったものが現在はさまざまな分野が対象となっています。
「陰陽師」シリーズの始まりである『陰陽師』の作者夢枕獏は、2017年の第65回で受賞しました。漫画やテレビドラマ、舞台など多くのメディアで展開され、現在に至るまでシリーズが続いています。
第22回日本ホラー小説大賞受賞「比嘉姉妹」シリーズ『ぼぎわんが、来る』 澤村伊智・KADOKAWA(2015)
【あらすじ】
田原秀樹は、幼少期に「ぼぎわん」と呼ばれる謎の怪物と遭遇していた。やがて成長し、家庭を持った秀樹は、育児ブログを執筆するほど育児にいそしんでいた。そんな彼のもとに謎の訪問者があって以来、秀樹の周辺で怪奇現象が起こり始める。愛する家族に迫る脅威から逃れるため、秀樹は霊媒師の比嘉真琴を頼るが……。
得体の知れないものが忍び寄って来るという「わからないものへの恐怖」と、「人間の恐ろしさ」を同時に味わえるホラー作品です。3部形式で語られ、それぞれに語り手が異なります。ひとつの視点では見えてこない別の面が見えたとき、ぞっとするような恐怖を味わえるでしょう。
おすすめポイント
この作品は、いろいろな恐怖をひとつの作品で味わいたい、という方におすすめです。基本的には「ぼぎわん」という謎の怪物について語られているのですが、人間が感じるさまざまな種類の恐怖も味わうことができます。
この作品で注目してほしいのは、圧巻の恐怖描写です。幽霊や得体の知れないものを描いたホラーが好きな人は、きっと夢中になって楽しむことができるでしょう。
また、「本当に怖いのは人間である」という考え方の人も楽しめる作品なので、幽霊や化け物といったものにはそこまで恐怖を感じないよ、という方にもぜひ読んでほしいと思います。
全体的に平易な表現で語られます。小説を読み慣れていない人にも読みやすく、小説の世界の中に入りやすい雰囲気を持っているので、ホラー小説は初挑戦という方にもおすすめです。
読書時間目安:『ぼぎわんが、来る』6時間半~7時間程度、シリーズ通して37時間半~40時間程度(『ぼぎわんが、来る』384ページ、シリーズ全7冊合計2241ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「日本ホラー小説大賞」って?
2018年までおこなわれていた公募新人賞のひとつ。長編賞と短編賞があった。2019年からは横溝正史ミステリ大賞と統合され、現在は「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」として開催されている。
「比嘉姉妹」シリーズの始まりである『ぼぎわんが、来る』は、2015年の第22回で受賞しました。漫画化もされ、『来る』のタイトルで映画化もされました。
第1回宮崎本大賞受賞「マーブル・カフェ」シリーズ『木曜日にはココアを』 青山美智子・宝島社(2017)
【あらすじ】
川沿いの桜並木のそばには、「マーブル・カフェ」という名前の喫茶店がある。ある日そのカフェで出された1杯のココアから始まって、東京とシドニーを繋ぐ、12のストーリーが綴られる……。小さな出来事がつながり合って、最後にはひとりの人間の命が救われる、こころ優しい物語。
最後に、短めのシリーズではありますが、心癒やされる作品をご紹介します。『木曜日にはココアを』と続編の『月曜日の抹茶カフェ』の2冊のシリーズです。長いシリーズを読むのはまだ自信がない……という方も挑戦しやすい長さで、また癒やされる物語でもあるので、安らぎのある読書体験をしたい方にもおすすめです。
おすすめポイント
この作品は、とにかく癒やされたい、という方におすすめです。シンプルなおすすめの仕方にはなりますが、心温まる物語に触れ、その余韻に浸ることで、きっと読書による癒やしを体験することができるでしょう。
12の色に分けられた12の物語が集まった短編集です。長編を読むのはまだ慣れていないけれど……という方でも、ゆっくりと読むことができる作品となっています。
描かれているのは、どれも日常的にありえそうな場面ばかり。ココアを飲んだり、卵焼きを作ったり……。誰もが体験するであろう日常がつながりあって、物語の最後には心温まる奇跡が起こる、という構成。どんな人であっても、きっと知らないうちに誰かのことを救っている、という温かな奇跡を信じられるような作品となっています。
ゆったりと時間をとって、リラックスした時を過ごしたいときにぴったりの作品なので、癒やされたい時にぜひ読んでみてくださいね。
読書時間目安:『木曜日にはココアを』3時間半~4時間程度、シリーズ通して7時間半~9時間程度(『木曜日にはココアを』211ページ、シリーズ全2冊合計451ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「宮崎本大賞」って?
宮崎県独自の賞で、県民におすすめしたい本を投票で決定します。書店員や図書館司書の皆さんが企画し2020年から始まりました。
「マーブル・カフェ」シリーズの始まりである『木曜日にはココアを』は、2020年の第1回で受賞しました。2024年には舞台化が発表され、2025年1月に開幕予定となっている。
長い時間楽しめる! シリーズものに挑戦してみて
今回は、時間をかけて楽しめるシリーズもの作品を5つご紹介しました。
まだ未完の作品もありますので、これから続編が発表されるのを待つという、シリーズものならではの楽しみ方もあります。
これからの一年をかけてシリーズすべてを読破するのもよし、もっといろいろな本に挑戦してみるのもよし。読書という趣味を生活に加えて、一年を楽しく過ごしてくださいね。