展示も建築も! 秋のお出かけを楽しめる美術館5選
10月になりました。涼しい日も多くなり、いよいよ秋の気分が盛り上がってきましたね。紅葉も色づくこの季節は、お出かけも楽しみになってくるもの。
そこで今回は、アートをより一層楽しめる美術館へのお出かけをご提案します。
開催されている企画展で見られる作品もさることながら、美術館の建築自体が一種の芸術品であることも。アートが趣味という方のなかには、美術館自体を見に行くことを楽しみにしている人もいます。
企画展とともに、美術館そのものにも注目してほしいスポットを東京都内からピックアップしたので、ぜひお出かけしてみてくださいね!
時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010(国立新美術館)
1989年から2010年までという時代は、昭和から平成になっただけではなく、冷戦の終結によって世界全体で国際的な対話がされるようになった時期です。
この20年間ほどの期間のなかで、日本で生み出された美術の表現や、その表現が発信されていった様子を、50名のアーティストの作品から考察します。
国際化の始まりを感じさせるプロローグから、1989年という時代の転換点で生まれた新しい視点のイントロダクションに始まり、1章「過去という亡霊」では、戦争や被爆、戦後問題への探求を見つめます。
続く2章では「自己と他者と」と題して、自分と人との間にあるジェンダーや文化的なアイデンティティを問います。3章「コミュニティの持つ未来」においては、すでにあるコミュニティとの関係や、新しい関係性の構築による可能性を考えます。
【国立新美術館について】
東京・六本木に位置する、日本最大級の美術館です。建築家・黒川紀章による最後の美術館で、曲線を描く外壁「ガラスカーテンウォール」、そのガラスの壁から漏れる光が美しいロビーなど、見所がたくさんあります。
その見所のひとつに、映画『君の名は。』(2016)に登場したカフェ「サロン・ド・テ ロンド」もありますよ。
まるで森の中にたたずんでいるような雰囲気の、美しい美術館です。
時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010
会場:国立新美術館(東京メトロ千代田線「乃木坂」駅 6番出口 直結)
会期:2025年9月3日(水)〜2025年12月8日(月)
アール・デコとモード 京都服飾文化研究財団(KCI)コレクションを中心に(三菱一号館美術館)
アートというと難しさを感じてしまう方も、ファッションをアートの入り口にしてみるのはいかがでしょうか?
アール・デコとは、アール・ヌーヴォーのあとに出現した装飾様式のひとつで、幾何学的な模様や直線的なフォルム、華やかな素材などが特徴です。流行の服飾、当時の「モード」にも影響を与えました。
2025年は、このアール・デコが注目されるきっかけになった1925年の「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」、通称「アール・デコ博」からちょうど100年目となります。
この記念すべき年に、選び抜かれた服飾作品約60点を展示。絵画、版画、工芸品といった国内外の作品とともに、現代にも影響力を持つ100年前の「モード」を見つめます。
【三菱一号館美術館について】
東京・丸の内に位置する美術館です。建築家ジョサイア・コンドルによる三菱一号館を復元したもので、明治期の洋館の雰囲気を存分に堪能することができます。
美しい庭にはヘンリー・ムーアの彫刻〈羊の形〉があり、併設の「カフェ1894」では、優美な空間でのお食事を楽しめます。
建物もお庭もカフェも、ぜひ注目してほしい美術館です。
アール・デコとモード 京都服飾文化研究財団(KCI)コレクションを中心に
会場:三菱一号館美術館(JR「東京」駅 丸の内南口 徒歩5分)
会期:2025年10月11日(土)〜2026年1月25日(日)
永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル — ハイジュエリーが語るアール・デコ(東京都庭園美術館)
こちらも「アール・デコ博」から100年となることを記念した企画展です。
先ほどとは異なり、ジュエリーからアール・デコを見ることができます。ティファニー、カルティエ、ブルガリ、ハリーウィンストンとともに「世界5大ジュエラー」のひとつに数えられる「ヴァン クリーフ&アーペル」。象徴的なクローバーのデザインは、もしかしたら見たことがあるかもしれませんね。
「アール・デコ博」は、現在の東京都庭園美術館である朝香宮邸の設計や、室内の装飾にも影響を与えています。
今回は、「ヴァン クリーフ&アーペル」のパトリモニー コレクション(継承するべきものや受け継がれていく財産として収集された、文化的・歴史的価値の高いコレクション)から、厳選された作品を展示。
今なお輝きを失わないアール・デコのジュエリーと、「ヴァン クリーフ&アーペル」に受け継がれ続けている“サヴォアフェール(匠の技)”を、心ゆくまで鑑賞することができますよ。
【東京都庭園美術館について】
旧皇族朝香宮家の本邸だった、アール・デコ建築の名作として知られる東京都庭園美術館。戦後になると首相公邸や迎賓館などとしても使用されました。
建築に関わったのは、設計者 アンリ・ラパンをはじめとした、ルネ・ラリックやマックス・アングランなどのフランスを代表する人々、さらに宮内省 内匠寮(くないしょう たくみりょう)※など日本人も参加した総勢100人以上。
※皇室の建築を請け負う人々のこと。
外観だけでなく、館内の装飾でもアール・デコを感じることができる名建築です。
永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル — ハイジュエリーが語るアール・デコ
会場:東京都庭園美術館(JR山手線「目黒」駅 東口 徒歩7分)
会期:2025年9月27日(土)〜2026年1月18日(日)
※事前予約制です。
オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語(国立西洋美術館)
こちらは月末、10月25日から始まる大注目の企画展です。
絵の具の発達のよって屋外での制作が可能となり、数々の風景画の傑作が生み出された印象派。印象派と言えば、モネの〈睡蓮〉のシリーズを始め、屋外を描いた作品が思い浮かぶことも多いかもしれません。
しかし、印象派と呼ばれる画家たちの作品は、私邸の壁面を飾る目的で描かれた作品も意外と多く、印象派と室内は関係が深いのです。
とくに、ドガは室内の人物を観察する鋭さに優れ、また、ルノワールも親しい雰囲気を感じられる室内画を多く制作しました。
今回は、パリにある“印象派の殿堂”オルセー美術館が所蔵する68点を中心として、国内からも重要作品を加えた約100点という圧巻の内容で展示をおこないます。この規模でオルセー美術館の印象派コレクションが展示されるのは、約10年ぶり! ぜひ足を運んでみてくださいね。
【国立西洋美術館について】
“近代建築の三大巨匠”のひとりであるル・コルビュジエは、スイスで生まれフランスで活躍した建築家。国立西洋美術館は、ル・コルビュジエによる日本国内唯一の建築物で、世界遺産にも登録されています。
ル・コルビュジエは、ピロティ、自由な平面、水平連続窓、自由な立面、屋上庭園という5つの要素を「近代建築5原則」としており、この美術館にもそれがエッセンスとして反映されています。
とくに、柱だけで壁のない空間「ピロティ」は特徴的で、一見の価値ありですよ。
オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語
会場:国立西洋美術館(JR「上野」駅 公園口 徒歩1分)
会期:2025年10月25日(土)〜2026年2月15日(日)
井上有一の書と戦後グラフィックデザイン 1970s-1980s(渋谷区立松濤美術館)
さて、最後は、【今月のアート展】では初めて扱うジャンルである、“書”の企画展をご紹介します。
書というと、絵画や立体よりも鑑賞方法がわからなくて、あまり楽しめなかった経験のある方もいるかもしれませんね。
書は、絵画や立体と違い、「文字」や「文章」を中心に取り扱ったアート。そのため、「読むことができる」のが大きな特徴です。
まずは、「繊細な字」「勢いのある字」といったざっくりとした感想から抱いてみて、読める場合には意味も一緒に味わってみましょう。とても深い鑑賞体験になるはず!
そんな書の企画展ですが、こちらは鑑賞者に強烈な印象を残す井上有一の没後40年を記念したものです。
生涯を教師生活に捧げ、庶民の視点から書という芸術を完成させようとした井上有一。そんな彼の書に魅了されたのは、グラフィックデザイナーたちでした。昭和100年、戦後80年というこの節目に、井上有一の書とグラフィックデザイナーたちとの関係を考えます。
【渋谷区立松濤美術館について】
独特の雰囲気がある渋谷区立松濤美術館は、渋谷区の高級住宅街の中に位置しています。設計者は、ドイツで近世ドイツ哲学とともにゴシック建築を学んだ、異色の建築家・白井晟一。
建物の中央は円筒形の大きな吹き抜けになっており、最下部の地下2階、噴水のある池まで光が届く構造になっています。狭い敷地内にどこからでも光が入るようにした、巧みな設計が感じられる構造です。
金曜は午後8時の夜間まで開館しているので、この美しい建築を夜の光とともに楽しむのもおすすめ。
井上有一の書と戦後グラフィックデザイン 1970s-1980s
会場:渋谷区立松濤美術館(京王井の頭線「神泉」駅 西口 徒歩5分)
会期:2025年9月6日(土)〜2025年11月3日(月)
前期:9月6日(土)~10月5日(日)
後期:10月7日(火)~11月3日(月・祝)
美術館自体も巨大なアート!
今回は、建築物としての美術館にも注目してほしい、5つの企画展をご紹介しました。
これからの季節、知的好奇心もアートな気分も満たしてくれる美術館は、大注目のお出かけスポットです。外出しやすくなってきた今こそ、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
こういった名建築と言われる美術館は、東京だけではなく、全国各地に存在しています。
ぜひ、展示とともに、美しい美術館にも注目してみてくださいね。