読書をこよなく愛する筆者utoが、自分時間の充実した読書体験をご提案。今回は、新生活からしばらく経ち、とにかく心がお疲れ気味……という方に向けて、癒やされる小説を厳選してご紹介します。癒やされたいだけでなく、ほっこりしたい、優しい気持ちになりたいなど、そんな心に寄り添ってくれる作品ばかりです。ぜひ読んでみてくださいね。

疲れた、癒やされたい……心に寄り添う小説5選

5月になりました。新しい生活にも慣れてきて、少しずつリズムができてきたという方もいるのではないでしょうか。

しかしその一方で、環境に疲れてしまったり、うまくいかなくて落ち込んでしまったりと、誰かに寄り添ってほしい気持ちになっている人もいるかもしれません。

そんなとき、ひとりでも癒やしを体験できる方法として、読書を強くおすすめします。

本を読んで、「この気持ち、私も一緒だ」と思ったり、「言えなかった思いを、代わりに言ってくれてるみたい」と思ったりすることは、非常に大きな癒やしになります。

また、涙活の一環で読書するのも、気持ちを整理してすっきりと前を向くための力になります。

興味が出た小説を、ぜひ手に取ってみてください。疲れた心をそっと包み込んでくれるかもしれませんよ。

第28回日本児童文学者協会新人賞受賞『西の魔女が死んだ』 梨木香歩・楡出版(1994)

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【あらすじ】
中学生になったばかりなのに不登校になってしまったまい。まいは、しばらくおばあちゃんの家で暮らすことになります。「魔女」と呼ばれているおばあちゃんは、魔女修行のため、まいにいろいろなことを教えてくれました。ジャム作りや、自然とふれあうこと……。唯一の掟は、「なんでも自分で決めること」。幸せの基準も、そのひとつなのでした。

主人公のまいとおばあちゃんが一緒に暮らした、1ヶ月間の出来事を描いた物語です。冒頭の書き出しからすると、そのたった1ヶ月間は2年前のことになります。その短い期間を回想することで描かれる、まいとおばあちゃんが過ごした時間に、きっと胸が熱くなるでしょう。

おすすめポイント

この作品は、自分の力で大切なものを見つけたい、という方におすすめです。

まいが「西の魔女」と呼ぶおばあちゃんは、魔女修行と称してまいにいろいろなことを教えてくれます。ただし、必ず最後は自分で決めること、という掟を課します。お気に入りの場所を決めるのも、さらには、何が幸せであるのかということも。

まいは繊細で傷つきやすい女の子という印象の主人公です。そんな主人公の耳を通して聞くおばあちゃんの言葉は、きっと強く胸に響いてくることでしょう。

全体として読みやすい文章で描かれているので、最初は不思議な比喩だと感じられるような表現も、すぐに受け入れられるようになると思います。

物語の舞台は、まさに5月です。初夏の空気を感じながら、幸せについて考えてみるのも素敵かもしれません。文庫版には、後日談である『渡りの一日』も収録されています。

読書時間目安:3時間半~4時間程度(226ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「日本児童文学者協会新人賞」って?
児童文学作品の創作や評論などの新人による単行本作品に贈られる賞です。毎年選考がおこなわれ、前年1月~12月までに発表された、新人作家の第3作目までが選考の対象となります。

『西の魔女が死んだ』は、1995年の第28回で受賞しました。ほか、新美南吉児童文学賞、小学館文学賞も受賞しています。ラジオドラマや映画、朗読劇になるなど、様々な方面でメディア化されました。

第17回本屋大賞2位受賞『ライオンのおやつ』 小川糸・ポプラ社(2019)

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【あらすじ】
ある日突然余命宣告を受けた。その最期までの時間を過ごすために、「ライオンの家」というホスピスへとやってきます。瀬戸内の海が見えるそのホスピスでは、毎週日曜日に「おやつの時間」というものがあり、生きているうちにもう一度食べたい、思い出のおやつをお願いすることができました。おやつのリクエストは思い出のエピソードを併記して箱に入れます。ただし、だれのおやつが当選するかはくじ引きできめられ、当日までわからないのでした。

突然、いのちの残り時間が迫っていることが告げられる……。誰にとっても衝撃的な物語ですが、その現実と向き合う人々の思いを読んでいくうちに、今日という日を精一杯生きていこう、という気持ちになることができるはず。

おすすめポイント

この作品は、とにかく疲れてしまった、という方におすすめです。

いのちの終わりに関する話で、はたして日々の疲れが癒えていくのだろうかと思われるかもしれません。

でも、生きるという営みや、それを支えてくれる思い出、そういったものを真剣に考えている姿は、疲れているときこそ共感できるものでもあると思います。

主人公の雫の心理描写は、非常にわかりやすい表現で描かれています。そのため、読者も雫が置かれている状況をしっかり受け止めることができます。

文章全体は柔らかな文体で書かれているので、小説に慣れていない人でもきっと集中して読んでいくことができるでしょう。

読書時間目安:4時間~5時間半程度(279ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「本屋大賞」って?
本屋大賞は2004年に設立された文学賞です。この文学賞は、書店員さんたちの投票で決まるという特徴があります。

『ライオンのおやつ』は、2020年の第17回で第2位を受賞しました。2021年にはテレビドラマ化もされています。

第58回谷崎潤一郎賞受賞『ミトンとふびん』 吉本ばなな・新潮社(2021)

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【あらすじ】
外山くんゆき世は、お互いの母親から許しをもらえないまま結婚しました。そんなふたりは、新婚旅行で訪れたヘルシンキで、とあるレストランに入ります。そこで交わされているクロークの男性と老夫婦という見知らぬ人々の会話に、ふたりは……。(「ミトンとふびん」)世界各地で、悲しみを小さな幸せに塗り替えていく、6編の短編集。

6つの短編が収録されている短編集です。それぞれの話で主人公は異なり、それぞれの人生を眺めていくことになります。さまざまな事情を抱えている人々の悲しみが、小さな幸せに変わった瞬間には、人生が変わったような感覚を味わえます。

おすすめポイント

この作品は、感情移入させすぎる小説に疲れてしまった、または、日常の小さな幸せを感じたい、という方におすすめです。

登場人物に感情移入して、その人生を体験しているような気持ちになれるのが、読書の楽しみのひとつ。ですが、疲れているときには、誰かの気持ちと一体となって状況を想像することが、けっこうつらくなることがあると思います。

この短編集は、文章全体に「他人の人生を外から眺めている感じ」が漂っているような気がします。感情移入して楽しむ作品というよりは、一歩距離を置いて読むことができる作品であるかもしれません。

まるで自分自身のことのように感じる読書体験に疲れてしまった……という方には、とくにおすすめしたいです。

また、悲しみを抱えていても、それを幸せに変えることもできる、という勇気を得ることができるはず。

読書時間目安:4時間半~5時間程度(264ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「谷崎潤一郎賞」って?
時代を表す小説や戯曲を対象に選考され、選考委員の合議をおこなった上で年に1度発表されます。小説家の谷崎潤一郎にちなんで創設されました。

『ミトンとふびん』は、2022年の第58回で受賞しました。吉本ばなな作品に共通する、「生と死」や「再生」といったテーマを存分に楽しむことができます。

第7回中央公論文芸賞受賞『ナミヤ雑貨店の奇蹟』 東野圭吾・角川書店(2012)

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【あらすじ】
敦也翔太そして幸平の3人は、泥棒をして逃亡している途中、バッテリーのトラブルで車が動かなくなってしまいます。仕方なく、廃屋になっている「ナミヤ雑貨店」に入り込み、夜明けまでしのぐことにしました。すると、シャッターについていた郵便口に、突然手紙が投げ込まれてきたのです。そこに書かれていたのは人生についての悩み相談。これを読んだ3人は……。

連作短編形式の長編小説です。身を隠すために忍び込んだ雑貨屋で、本名を伏せた手紙が投函されてくるのですが、ほとんど出来心のような感じで返事を出す3人。返事は裏の牛乳箱に入れておいたのに、なぜか次の瞬間には入れたはずの返事は消えていて……という、謎めく出だしです。

おすすめポイント

この作品は、小さな奇跡を見届けたい、または、ほっとするミステリーが読みたい、という方におすすめです。

ミステリーと言ってもファンタジーの色が強いので、理路整然とした推理や展開が苦手……という方でものんびり読んでいくことができると思います。

悩み相談の内容もバリエーション豊かで、「こういう悩み事、ありそうかも」と思えるものも魅力です。ファンタジー色が強くても、悩み事には一定のリアリティーがあるので、ぐっと入り込んでいくことができるはず。

さすがに推理作家の作品だけあって、情報の提示が丁寧です。3人があれこれ推測しているシーンでも、「いや、それはない」「たぶんこうだろう」というようなやりとりがあり、そこはミステリーらしさが感じられます。

文章全体としては、平易な表現が多く、とても読みやすいです。難しくて置いて行かれるということがないので、きっと作品の世界に入り込んだような気持ちで読むことができると思います。

読書時間目安:7時間~8時間半程度(416ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「中央公論文芸賞」って?
第一線で活躍している作家による、優れたエンターテインメント作品が選考の対象となる文学賞です。新人は対象にならず、中堅以上のベテラン作家の作品が対象であるという特徴があります。

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は、2012年の第7回で受賞しました。幾度も舞台やミュージカルになり、日本や中国で映画化もされています。

第16回本屋大賞受賞『そして、バトンは渡された』 瀬尾まいこ・文藝春秋(2018)

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【あらすじ】
幼い頃に母親を亡くした優子は、父親とふたりで暮らしていました。ある日父親が再婚し、継母ができます。しかし、父親の仕事の都合で突然ブラジルに移住することになると、両親は離婚。優子は、継母とともに日本に残ることになりました。それから血のつながらない親の間をリレーしていった優子は、大人になって伴侶を得ることになり……。

大人たちの都合で家庭環境が次々と変わる優子ですが、どの親も優子を愛そうし、優子も良い娘であろうとします。そうした、血はつながらないけれど、大事な家族として絆を繋いでいく姿は、とても心が温かくなります。

おすすめポイント

この作品は、愛情深い物語が読みたい、という方におすすめです。

家庭環境がころころ変わることは一見すると良くないことと思われがちですが、親が変わるたびにお互いに良い親子になろうと努力する姿は胸を打ちます。

優子は、悩みのないのんきな性格として描かれるのですが、その性格の理由として、優子本人は「親が良すぎる」ことをあげています。17歳までに7回家庭環境の変化を経験しますが、苦労と言うほどのことは経験していない、と思っているのです。

事実、優子を取り巻く多くの親たちは、とても愛情深く優子に接します。その優子とたくさんの親たちとのやりとりを見ていると、とても温かい気持ちになれます。

文章は非常に読みやすいです。主人公の年齢に合わせた柔らかな文体で語られるので、落ち着いた気持ちで読んでいくことができると思います。

読書時間目安:7時間~8時間半程度(432ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「本屋大賞」って?
本屋大賞は2004年に設立された文学賞です。この文学賞は、書店員さんたちの投票で決まるという特徴があります。

『そして、バトンは渡された』は、2019年の第16回で受賞しました。また、TBS「王様のブランチ」ブランチBOOK大賞2018、紀伊國屋書店・キノベス!2019でも大賞を受賞しています。第31回山本周五郎賞候補にもなりました。2021年には映画化もされています。

疲れたときこそ、ほっこり読書

今回は、癒やされる小説を5つご紹介しました。

読書という行為そのものにもリラックス効果がありますが、今回ご紹介した作品はどれも癒やし力が抜群です。

後半2冊は少々ページ数がありますが、それ以外は300ページもないので、気楽に読んでみることができると思います。

寝る前のリラックス時間にも、また本当に疲れてしまって慰められたいときにも。これらの本がそっと寄り添ってくれるはず。ぜひ、手に取ってみてくださいね。

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