「推し」を見つける! キャラクターが魅力たっぷりな小説5選
4月になりました。暖かい日も多くなり、少しずつ活動的になりたくなる季節です。
この春、新生活を始めた方も、これまで通りの生活だという方も、新しいことを始めたいと思ったら、推し活をしてみるのはいかがでしょう?
推しを見つけて生活を充実させるのはとても楽しいもの! 推し活のひとつとして、本の中の登場人物を推してみる……なんていうのも素敵です。
今回は、登場人物が魅力的な小説を5つ厳選してご紹介します。中には史実に登場する人物が主人公の本もありますが、基本的にはフィクション作品から選びました。
ぜひ、読書とともに推し活を楽しんでくださいね。
第57回日本推理作家協会賞短編部門受賞『死神の精度』 伊坂幸太郎・文藝春秋(2005)
【あらすじ】
人間が生み出したもののうち、音楽がもっとも素晴らしく、渋滞がもっとも醜いと思っている。仕事の時はいつも雨。そんな千葉の仕事は、七日間かけて対象を調査し、その生死を判断する死神です。人間とはちょっと感覚がずれている、そんな彼と、生きるか死ぬかを知らない人間たちとの交流と生死を描いた短編集。
死神というものを「職業」として扱った、一風変わった設定の小説です。短編集なので、それぞれに調査対象の人物は変わりますが、誰に対しても”ちょっとずれている”千葉の言動がおもしろく感じられます。
おすすめポイント
この作品は、変わり者のキャラクターが見たい、または、自分の人生や生死というものについて考えたい、という方におすすめです。
この作品の中で魅力的なキャラクターと言えば、やはり語り手の千葉でしょう。
筆者は読む前、死神という職業と言うからにはさぞ徹底的にシビアな性格をしているだろうと思っていたのですが、開けてみれば「やや抜けてる?」と思えるくらいに”変わり者”でちょっとキュート。
各話ごとに登場するそれぞれの”ジャッジされる側の人間”の人生も魅力があり、千葉のジャッジに衝撃を受ける話もありますが、なぜだか受け入れられてしまう不思議な小説です。
この『死神の精度』は版によっては加筆修正されているものもありますので、それぞれの版を楽しんでみるのもありかも?
読書時間目安:5時間半~7時間程度(352ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「日本推理作家協会賞」って?
毎年、日本推理作家協会がおこなっている文学賞です。その年で最も優れている推理小説に贈られます。日本推理作家協会は、探偵作家クラブという、江戸川乱歩が中心となって設立した団体が前身です。
『死神の精度』は、2004年に短編部門を受賞しました。2006年には第134回直木賞候補、同年本屋大賞第3位となっています。ラジオドラマや映画、舞台化もされており、2013年には続編『死神の浮力』が刊行されています。
第4回ボイルドエッグズ新人賞受賞『鴨川ホルモー』 万城目学・角川書店(2006)
【あらすじ】
二浪を経て京都大学へ入学した安倍。葵祭(京都三大祭りのひとつ)のアルバイトをしていたところ、帰り道に出会った高村から、「京大青竜会」なるサークルの勧誘を受けます。安倍はそのサークルの新歓コンパで早良京子(というか彼女の鼻)に一目惚れ! サークル活動に楽しく打ち込んでいると、「ホルモー」という謎の競技について語られ……!?
タイトルからして「ホルモーってなに!?」となってしまう、目を惹く小説です。京都を舞台に、個性的な仲間とともに謎の競技で戦っていく、バトル・青春・ラブコメと要素盛りだくさんのこの作品、ぜひ一度読んでみて!
おすすめポイント
この作品は、独特なファンタジーを読んでみたい、という方におすすめです。
まず、「ホルモー」という謎の語感を持つ競技が存在する、というところから独特です。鴨川という名の通りに京都でのお話なのですが、12月のブックガイドでご紹介した『夜は短し歩けよ乙女』とはまた違った角度から(良い意味で)奇天烈です。
筆者の個人的な好みで言えば、後に安倍の友人的存在となる高村が好きです。ときどき常識人(基本的にはやや常識はずれともいう)という性格も良いのですが、その性格の良さがあるからこそファッションセンスが壊滅的という弱点がとても光ります。
文章の雰囲気は、やや古風な感じもあります。それなのに、笑いがこらえられない! となる瞬間もあり、”古風さ”と”謎の勢い”の同居がとっても楽しいです。
肩肘張らない楽しい読書がしたいと思ったら、とてもおすすめですよ。
読書時間目安:5時間~6時間半程度(308ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「ボイルドエッグズ新人賞」って?
産業編集センター後援の、ボイルドエッグズが主催する公募新人文学賞です。ジャンル不問で公募をおこない、選考委員がすべての作品を読んで受賞作品を選ぶのが特徴です。
『鴨川ホルモー』は、2005年の第4回で受賞しました。漫画や実写映画、舞台化もされており、2007年にはスピンオフとなる『ホルモー六景』が刊行されました。
第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞『しゃばけ』 畠中恵・新潮社(2001)
【あらすじ】
江戸時代。体の弱い一太郎は、薬種問屋(薬の原料や調剤した薬を扱う問屋)の若旦那。そんな彼の周りには、犬神や白沢などの妖怪がたくさんいて、一太郎を支えていました。外出もままならない一太郎はある日、こっそりと外に出た先で殺人事件に出くわしてしまいます。そこから猟奇的な事件が相次ぎ、一太郎は妖怪たちと解決に乗り出しますが……!?
ここからは過去の日本を舞台にした小説をご紹介します。主人公の一太郎は穏やかな性格の持ち主で、その周りにいるのは個性的な妖怪ばかり。江戸時代くらい昔なら、こんな世界もあったかも……? と思わせる楽しいファンタジーです。
おすすめポイント
この作品は、ファンタジーとミステリーを両方味わいたい、または、たくさんいるキャラクターの中から推しを見つけたい、という方におすすめです。
最初数行は不気味な文章ですが、付喪神や妖怪が出てくるなど、最初から和風ファンタジー全開の始まり方です。こういう感じのファンタジーが好きな方にはたまらないと思います。
出てくる妖怪の名前に聞き覚えがないものがあっても、きちんと説明があるので置いてけぼりになりません。一太郎と妖怪たちとの交流がなんともうらやましく思えるくらい、両者の関わりが魅力的です。
全体として読みやすく、江戸にタイムスリップした気持ちになれるくらい入りやすいです。ジャンルはファンタジーですが事件の謎についてもこだわられていて、ミステリーとして読む楽しさもあります。
現在にいたるまで20巻以上の続編が出ているので、ひとつの作品を長く楽しみたい方にもおすすめです。いろんなキャラクターが登場してくる作品が読みたいなら、ぜひ挑戦してみてくださいね。
読書時間目安:5時間半~6時間半程度(342ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「日本ファンタジーノベル大賞」って?
未発表のファンタジー小説を対象に、プロ・アマを問わず作品を公募して選考する文学賞です。入賞しなくても優れた作品は刊行されてきた歴史があり、そこからも人気作家が輩出されてきました。
『しゃばけ』は、2001年の第13回で優秀賞を受賞しました。ラジオやテレビでドラマ化、舞台、ミュージカル、アニメなど様々な方面でメディア化されました。シリーズとして、第1回吉川英治文庫賞も受賞しています。
第31回吉川英治文学新人賞受賞『天地明察』 冲方丁・角川書店(2009)
【あらすじ】
時は第四代将軍家綱の時代。碁打ちの家に生まれた渋川春海は、算術に生きがいを見いだしていました。そんな折、使われている暦「宣明歴」に誤差が生じていることを見つけてしまいます。暦の誤りを訴えることは朝廷に造反するも同じこと。果たして渋川春海は、朝廷、果ては”天の動き”という大きなものにどのように立ち向かっていくのでしょうか?
ここからは過去の日本が舞台でも、史実に登場する人物が主人公の作品をご紹介します。どちらも知性が光る登場人物ですので、知的なキャラクターが好きならきっと楽しいはず! 『天地明察』は文庫版では上下巻になっているので、少し長めの小説に挑戦してみたいという方もぜひ。
おすすめポイント
この作品は、主人公の挑戦と成長を見届けたい、という方におすすめです。
”暦”という天地のルールを算術によって導きだし、これまで絶対と思われていたものよりも真理を追究する主人公の姿勢に、きっと胸が熱くなるはず。
全体の文章としては、同じく江戸時代を舞台とする上記の『しゃばけ』よりもやや上級者向けの感じがあります。ですが、最初は「難しい言葉遣いが多い……」と思いながらでも読んでいくと、やがてこの文章こそが『天地明察』の世界観に欠かせない表現であると思えるようになるでしょう。
ストーリーも本記事でこれまで紹介してきた上記3冊よりも気楽なものではありませんが、読みごたえのある本を探している! という場合なら、この本はとてもおすすめです。
困難を乗り越えることや、困難なときに支え合うことなど、学べることも多い本です。きっとすっきりと気持ちの良い読後感を味わえると思います。
読書時間目安:上下巻合計10時間~11時間半程度(上巻288ページ・下巻304ページ、合計592ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「吉川英治文学新人賞」って?
公益財団法人吉川英治国民文化振興会が主催、講談社後援の文学賞です。新聞や雑誌、単行本といった媒体に発表された、優秀な小説を書いた新人作家の中から受賞者が選ばれます。1980年創設。
『天地明察』は、2010年の第31回で受賞しました。同年の本屋大賞にも選ばれ、第143回直木賞の候補にもなりました。ほか、多数の賞を受賞。漫画化や映画化などもされました。
第166回直木賞受賞『黒牢城』 米澤穂信・KADOKAWA(2021)
【あらすじ】
時は戦国。荒木村重が織田信長に叛逆した。有岡城に籠城している荒木村重を説得するために城を訪れた小寺官兵衛(後に黒田官兵衛)は、そこで捕らえられ地下牢へ幽閉されてしまう。しかし、その城の内で怪奇な事件が発生。籠城という閉鎖空間の、さらに地下牢という二重の檻の中で、官兵衛はどのように謎を解くのでしょうか?
こちらはさらに時代をさかのぼって、戦国時代のお話です。黒田官兵衛と言えば、有岡城での幽閉があまりにも有名ですが、これはそのエピソードに題材をとった作品。地下牢から一歩も出ずに事件を解決するというシチュエーションはなかなかないので、個性が光るミステリーが読みたい方はぜひ!
おすすめポイント
この作品は、知的な探偵役が見たい、という方におすすめです。
黒田官兵衛と言えば知将で有名ですが、作中でもその知性が光ります。ユーモアで魅せる探偵より知性に属性を全部振ったタイプがお好きならおすすめ! 状況に屈しない官兵衛には筆者も惚れ惚れしました。
ミステリーのジャンルとしては、”安楽椅子探偵”に当たります。事件現場に赴くことなく、関係者から話を聞くだけで事件を言い当ててしまう、筆者も大好きな探偵のひとつです。
いわゆる連作短編の形をとっていて、四季折々の城内で起こる事件のバリエーションも豊かなので、飽きずに読んでいくことができます。
文章は非常に読みやすいです。戦国時代を表現するために見慣れない表現もあったりもしますが、水のようにさらさらと読んでいくことができ、ちょっと長めの小説は初挑戦! という方でも読破を目指せると思います。
読書時間目安:9時間~10時間半程度(528ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「直木賞」って?
直木賞は、大衆性を押さえた長編小説または短編小説集に与えられる文学賞です。大正時代から昭和時代にかけて名をはせた人気作家直木三十五が名前の由来。上半期と下半期の年2回あります。
『黒牢城』は、2021年の下半期、第166回で受賞しました。また、第22回本格ミステリ大賞、第12回山田風太郎賞も受賞。ほか、4大ミステリランキングを史上初めてすべて制覇しました。
これからの生活を、魅力的なキャラクターたちとともに!
今回は、登場人物が魅力的な小説を5つご紹介しました。
キャラクターに魅力がある小説は「キャラクター小説」などと呼ばれますが、そのジャンルに収まらない本にも素敵なキャラクターは登場します。
ぜひ、いろいろな本を読んで、「私の推し!」を見つけてみてくださいね!