旅行気分を盛り上げる! おすすめの旅小説5選
2月になりました。暖冬のような日もあれば、寒くておうちにこもっていたくなる日もある、そんな日々が続いていますね。
この月が一番寒いと言いますが、同時にこれからだんだん暖かくなっていく時期でもあります。少しずつ気温も上がってくると、旅への気持ちも上向いてくるものです。
今回は、そんな旅への気持ちをさらに盛り上げる本を5冊ご紹介します。
旅をテーマにした本は旅本といって、”エッセイ”や”紀行録”などの形式もありますが、小説だと”旅小説”や“ロードノベル”と呼ばれることもあります。
※旅小説が旅全般に焦点があたっているのに対し、ロードノベルは移動自体に焦点があたっていることが多いです。
今回ご紹介する旅小説を読んで、旅への気持ちを盛り上げるのも良し、おこもりしながら旅気分を味わうのも良し。作中の旅程を自分で旅するのも楽しいですよ。ぜひ、旅行気分を楽しんでくださいね!
第12回エキナカ書店大賞受賞『旅屋おかえり』 原田マハ・集英社(2014)
【あらすじ】
売れないタレントの丘えりか、通称おかえり。彼女はテレビで旅番組を受け持っていましたが、とある大失敗が原因で番組を打ち切られてしまいます。そんな崖っぷちの彼女が始めた新しい仕事は、旅代行業──人の代わりに旅をすること! 秋田県角館では満開の桜、愛媛県内子町へは人捜しのために、依頼人から託された旅をしていきます。おかえりは、旅先で出会った人々と、どのようなふれあいをしていくのでしょうか?
旅が好き、いや「移動が好き」という、旅をすることが自分の一部になっていた主人公が、旅番組をクビになってしまうところから始まる物語です。ある日届いた一通のメールがきっかけで、もう一度旅人になって各地を旅するおかえり。タイトルと併せて、この物語の温かな雰囲気に浸ってみてくださいね。
おすすめポイント
この作品は、読書を通して日本各地を旅してみたい、または、温かな物語に触れて癒やされたい、という方におすすめです。作者の原田マハは大の旅好きで知られています。そんな作者が描く旅の臨場感と人々とのふれあいは、きっと深く心のなかに残ることでしょう。
本文中はセリフが多めです。地の文(会話以外の、説明や描写をおこなっている部分のこと)も平易な表現になっているので、小説は読み慣れていないという人でも楽な気持ちで読んでいくことができます。
旅先の描写は、さすが旅好きの作者が書いているだけあって、実際に行ってみたくなるほど魅力的。また、人々の言葉遣いにもそれぞれの地域らしさや人柄が出ているので、ほっこりした気持ちになれます。
未収録となったエピソードも2021年に発行されているので、もっとおかえりと旅をしたい! という方は、ぜひチェックしてみてくださいね。
読書時間目安:5時間半~6時間半程度(352ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「エキナカ書店大賞」って?
JR東日本クロスステーションと、株式会社ブックスキヨスクなどの書店が中心となって運営されている文学賞です。「本屋大賞」と同じく、書店員が中心となって受賞作を選考します。ノミネート作の中で最も売れた本が大賞となります。
『旅屋おかえり』は、2019年の第12回で受賞しました。2021年には『旅屋おかえり』未収録となった札幌・小樽編を描いた『丘の上の賢人 旅屋おかえり』が発行され、2022年にはテレビドラマ化もされました。
第4回ブクログ大賞受賞『旅猫リポート』 有川浩・文藝春秋/講談社(2012)
【あらすじ】
野良猫のナナは、子ども時代から引っ越しを繰り返してきた青年サトルに拾われ、5年間ともに過ごしてきました。しかし、ある理由から、サトルはナナを手放すことを決意します。銀色のワゴンに乗って、秘密を抱えた青年と相棒猫は”最後の旅”に出ます。サトルは日本各地にいる懐かしい人々に、ナナをもらってくれないかと訪ね回りますが……。
猫のナナ、そして訪ねた先の友人たちの視点から語られる、心温まる物語です。ナナや友人たちの目を通して見るサトルという青年の優しさと、語り手たちそれぞれの人生。決して愉快なだけではない物語ですが、猫と青年のロードノベル、気になったらぜひ読んでみてくださいね。
おすすめポイント
この作品は、猫が好きで猫が出てくる作品を読んでみたい、または、泣ける物語に触れたい、という方におすすめです。人間を見る猫のナナはちょっと斜に構えた性格の持ち主で、もうひとりの主人公のサトルは猫好きの心優しい青年。相棒としてもぴったりのふたりなのですが、サトルはナナを手放すため旅に出るというお話です。
いわゆるロードノベルというジャンルの小説です。「ロードノベル」とは、「移動の文学」とも呼ばれ、移動=道中をテーマにした小説のこと。映画にもロードムービーと呼ばれるジャンルがありますが、それと同じように、旅に出る目的、移動の手段などはさまざまです。
この作品での旅の目的は「ナナの新しい飼い主を捜すこと」、移動の手段は「銀色のワゴン」。その目的と移動手段によって見ることができる美しい風景は、実際にこの目で見てみたいと思うほど。
この物語の終着点がどうなるのか、実際に読んで確かめてみてくださいね。
読書時間目安:5時間半~6時間程度(336ページ)
※ページ数は、ペーパーバックでのページ数です。
「ブクログ大賞」って?
本好きの一般の読者が選考の中心となる書籍大賞です。X(旧Twitter)やブクログでの投票に加えて、ブクログでのレビューなどを総合的に評価して大賞を決定します。
『旅猫リポート』は、2012年の第4回で小説部門を受賞しました。吉川英治文学新人賞候補、山本周五郎賞候補、山田風太郎賞候補と数多くの賞でノミネートされ、舞台やラジオドラマ、映画化もされました。
第34回三島由紀夫賞受賞『旅する練習』 乗代雄介・講談社(2021)
【あらすじ】
感染症が拡大し、学校が休校になっている小学生の亜美。サッカー少女である亜美は、ある日小説家の叔父(私)と、感染症を避けた徒歩の旅に出ます。我孫子から、鹿島アントラーズの本拠地まで……。自分の足でおこなう、叔父と姪のふたり旅。
この作品もロードノベルですが、こちらは徒歩です。サッカーとオムライスが大好きな女の子と、サッカーの得意な小説家。少し個性的な組み合わせですが、読んでいると、散歩でもいいから徒歩の旅をしたくなる、そんな作品です。
おすすめポイント
この作品は、日常の尊さを感じたい、という方におすすめです。物語は新型コロナウイルスが猛威を振るっていた時期に重なります。このような状況で、一週間の旅に出る叔父と姪。やがてそこに、みどりというひとりの女性も加わります。
コロナ禍も落ち着いたと言われていますが、この時期に日常を奪われた感覚になった人もいるのではないでしょうか。この物語は、そんな日常の尊さを丁寧に描いた作品となっています。
セリフが日常的な発音にとても近い表現で書かれているので、小説は不慣れという人でもすらすら読んでいくことができ、物語にスッと入り込んでいけます。読書はまだ不慣れという人でも、文章のテンポをつかむのにそんなに時間がかからないので、しっかり物語についていくことができると思います。
乗り物に乗って行く旅も楽しいですが、たまには自分の足だけで旅をしてみるのもいいかもしれない……。そんな気持ちになれる、ロードノベルの傑作です。
読書時間目安:3時間半~4時間程度(208ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「三島由紀夫賞」って?
三島由紀夫の業績を記念して、三島と関係の深かった新潮社の新潮文芸振興会が主催している文学賞です。対象作品は芥川賞・直木賞と同じジャンルですが、新たな才能を求めて「山本周五郎賞」とともに新潮文芸振興会が開催しています。略称は「三島賞」。
『旅する練習』は、2021年の第34回で受賞しました。三島賞とともに第37回坪田譲治文学賞もダブル受賞したことで話題になりました。また、芥川賞候補にもなっています。
2018年ピューリッツァー賞受賞『レス』 アンドリュー・ショーン・グリア・早川書房(2018)
【あらすじ】
しがない・売れない・50歳目前の作家、アーサー・レス。ある日彼の元に、元恋人の結婚式への招待状が届きました。9年間付き合った元恋人。ああ、元恋人の結婚式なんか出たくない! そう思ったレスは、どうしたら式に出なくて済むかを考え、「世界中の文学イベントを回る」という妙案を思いつきます。が、行く先々で思い出すのは元恋人のことばかり……。この旅は一体どうなってしまうのでしょうか?
結婚式への出席を断る口実に、世界中をめぐる旅に出るお話です。レスが計画した行き先は、ニューヨーク、メキシコシティ、トリノ、ベルリン、京都などなど。元恋人の結婚式から逃れるはずが、思い出すのは元恋人との思い出ばかり……。そんなレスは、果たして愛を見つけられるのでしょうか?
おすすめポイント
この作品は、ユーモアあふれる作品を読みたい、という方におすすめです。「元恋人の結婚式から逃れるはずが、元恋人の思い出からは逃れられていない」という状況からすでにユニークなので、とにかく楽しめる作品を読みたい方にはとくにおすすめです。
ひとつひとつの段落が長く感じられるかもしれませんが、コミカルな文体なので、読むのが苦になりません。主人公のレスについては、出だしからすでに「なんだか不憫なおじさん」という感想になってしまいそうな感じなので、そういうキャラクターに魅力を感じる人は最初から楽しく読めると思います。
筆者は表紙も込みでこの主人公が好きなのですが、表紙のこの表情、まさにレスを表しているようでとても秀逸です。表紙に描かれたレスを見て「気になる……」と思った方はぜひ読んでみてくださいね。
また、翻訳の文章も読みやすいので、翻訳ものに挑戦していきたいという方にもおすすめです。
読書時間目安:5時間半~7時間程度(325ページ)
※ページ数は、単行本でのページ数です。
「ピューリッツァー賞」って?
アメリカ合衆国において、新聞や雑誌などの報道、また文学や音楽などにおける優れた功績に対して贈られる賞です。合計で21部門存在します。
『レス』は、2018年に受賞しました。ニューヨーク・タイムズ誌などで年間ベストブックにも選出されました。
1989年ブッカー賞受賞『日の名残り』 カズオ・イシグロ・早川書房(1989)
【あらすじ】
老執事のスティーブンスは、長年仕えた主人亡き後、その屋敷を買い取った新しい主人のもとで働いていました。そんなスティーブンスのところに、かつての同僚ベン夫人から手紙が届きます。スティーブンスは、主人の勧めでベン夫人を訪ねる小旅行に出ることに。かつての主人やベン夫人への懐かしい気持ちを持ちながら旅に出たスティーブンスは、この旅に何を見出すのでしょうか?
最後に、やや重厚な雰囲気を持つ作品をご紹介します。イギリスの田園風景をめぐりながら、過去を思う老執事の物語です。スティーブンスが主人のフォードを借り、たったひとりで旅します。この作品はカズオ・イシグロの代表作のひとつでもあるので、ぜひ触れてみてくださいね。
おすすめポイント
この作品は、しんみりとした、シリアスな作品を読んでみたい、という方におすすめです。過去を回想するシーンが多いですが、だんだんと不穏になる展開に、これは一体どうなってしまうのだろうとついのめり込んでしまうかもしれません。
スティーブンスの一人称視点で物語が進みます。執事という職業のためか、文章は全体として丁寧な語り口です。地の文も敬語で語られている文章が多いので、最初は慣れない感じがあるかもしれませんが、慣れてくるとそれも作品の個性として受け入れられるようになっていくと思います。
時代設定が第二次世界大戦に関わってくる時期なのですが、戦争ものというよりはむしろ回想録(過去の思い出やあった出来事を書いた文章。自伝やメモワールと呼ばれることも)のような雰囲気があります。読んでいる最中も、ゆったりとした時間が流れるでしょう。
作者がノーベル文学賞を受賞したので、『日の名残り』にはノーベル賞記念版(単行本。解説は村上春樹)が存在します。気になったらチェックしてみてくださいね。
読書時間目安:6時間~7時間半程度(365ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「ブッカー賞」って?
イギリス最高峰の文学賞と言われており、世界的な権威もある賞。その年に出版された、英語で書かれた長編小説を対象に選考される。2019年から「国際ブッカー賞」に改称された。通称は「the Booker」。
『日の名残り』は、1989年に受賞しました。1993年には映画化もされています。
お部屋で旅気分も、実際に現地を旅行しても! 旅小説を楽しんで。
今回は、旅をテーマにした小説を5冊ご紹介しました。
作中に出てくる土地はほとんどが実在しているので、実際に旅行に出て楽しむこともできます。本を手にしながら、この描写はこういうことだったのか! と、現地に行かないとわからない風景を探してみるのもきっと楽しいですよ。
本の中に出てくる土地のどこかが気に入ったら、ぜひ旅に出てみてください。
『singles』では、ひとり旅に関する情報も取り扱っていますので、そちらも参考にしてみてくださいね。