読書をこよなく愛する筆者utoが、自分時間の充実した読書体験をご提案。今回は、文学賞受賞作品のなかから、表紙もタイトルもおしゃれで思わず持ち歩きたくなってしまう本を5冊ご紹介します。本棚に飾っているだけでも気持ちが盛り上がるような本ばかり選んだので、ぜひ本棚に一冊加えてみてくださいね。もちろん、内容もとってもおもしろいですよ!

ブックカバーをつけるのがもったいなくなる、表紙が素敵な本5選

12月になりました。ホリデーシーズンになり、街もきれいに飾り付けされてきたので、おしゃれな格好をして出歩きたくなりますね。そんな季節に、街中でもカフェでも、思わずブックカバーなしで本を開いてしまいたくなるような、素敵な表紙の作品はいかがですか?

今回は、タイトルも込みでおしゃれな本を、5冊厳選してご紹介します。内容もとってもおもしろいので、ぜひ読んでみてくださいね!

本棚にこれらの本を加えて、ぜひその表紙とタイトルが物語るものを感じてみてください。

第20回山本周五郎賞受賞『夜は短し歩けよ乙女』 森見登美彦 ・角川書店(2006)

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【あらすじ】
男子大学生の先輩が思いを寄せるのは、同じ大学の後輩である黒髪の乙女。先輩はなんとか黒髪の乙女と接点を持とうと、彼女を追って街を歩き回ります。が、黒髪の乙女はじつに自由奔放! あるときはお酒を求めて電気ブランを飲み、またあるときは古本市へ出かけていき、なぜか先輩は火鍋を食べる!? どんなにどんなに歩いても、黒髪の乙女は後を追う先輩の存在にはつゆほども気づかない。はたして、先輩は黒髪の乙女の心をつかむことができるのか?
先輩と黒髪の乙女、双方の視点から語られる、ちょっと個性的な恋愛ファンタジー。

実際に存在する京都の土地で繰り広げられる、ちょっと変わった恋愛ファンタジー小説です。先輩と黒髪の乙女、どちらの視点からも楽しめる作品で、「何でそうなった?」と思ってしまうようなユーモアあふれる物語となっています。

おすすめポイント

この作品は、ちょっと変わった恋愛小説を読んでみたい、または実際に作中の土地を訪れてみたい、という方におすすめです。作者の森見登美彦はリアリティと幻想とユーモアを融合させるのがとてもうまいので、きっとその世界観に引き込まれてしまうでしょう。

注目したいのは、黒髪の乙女の自由奔放ぶりと、それにもめげずに追いかけ続ける先輩の根気強さです。黒髪の乙女はじつに自由に、そして純粋に街を楽しむのですが、一方の先輩はと言えば、黒髪の乙女を追いかけているだけなのになぜかトラブルに巻き込まれてばかり。そんなふたりの姿に、きっと笑みがこぼれてしまうと思います。

先輩側はトラブルが多いとは言え、基本的に平和なムードが漂っているので、本を読んで癒やされたい時にも非常におすすめです。難しいからこそ没頭しなければならないタイプの作品とは異なり、リラックスした気分で物語を楽しむことができます。

また、現実に存在する土地で展開される物語なので、読んだあとに現地に旅行に行くこともできます。いわゆる聖地巡礼ですが、作中のことを思い出しながらの旅行はとっても楽しいですよ。

読書時間目安:4時間半~6時間程度(320ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「山本周五郎賞」って?
山本周五郎賞は、昭和の時代に活躍し名を残した山本周五郎の名を冠した文学賞です。優れた物語性を持つ作品に贈られます。

『夜は短し歩けよ乙女』は、2007年の第20回で受賞しました。同年の本屋大賞2位や、第137回直木賞候補になるなど注目を集めました。2017年にはアニメーション映画化され、漫画化や舞台化など、広くメディア展開されています。

2007年ピューリッツァー賞受賞『ザ・ロード』 コーマック・マッカーシー・早川書房(2006)

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【あらすじ】
災いから10年。荒廃した世界で、旅を続けるとその息子。世界では略奪や殺人がはびこっているが、この親子だけは倫理や理想を捨てずに歩み続ける。災いによって動植物はほとんど死滅し、残ったわずかな人間たちも生きるために倫理を捨て去っているが、果たしてこの世界は本当に終わってしまったのだろうか?

人間の残酷さと優しさとを表現した本作品は、崩壊後の世界を描いた、いわゆる終末ものです。SFの世界では「終わってしまった世界」を描くのは一大ジャンルのひとつですが、本作は旅をするロードノベルとしての側面も持っています。作中では名前の出てこない父と息子の旅路の果てを、ぜひ見てみてくださいね。

おすすめポイント

この作品は、終末ものの作品に挑戦したい、または人間の優しさの可能性を感じてみたい、という方におすすめです。生きるためには倫理も理想も捨ててしまえる人間がいながらも、そんな世界でどちらも握りしめたまま旅を続ける親子の強さに、きっと感情が揺り動かされることでしょう。

もちろん、物語の性質上残酷さを感じるシーンも多いのですが、親子のあり方とその強さに支えられて、きっと読み切ることができると思います。

全体として段落が長く、比喩も読み慣れないような表現が多めですが、読み進めていくと、だんだんとその比喩すらもこの物語に欠くことのできない重要な表現方法なのだと思えると思います。

災いによって「終わってしまった世界」での物語ですが、その災いの詳細は語られません。むしろ災いであるのはその「災い自体」であったのか、生き残った人間たちの残酷さであるのか、わからなくなる場面も。

こういった人間の残酷性を描ききった終末ものの作品を読み慣れていないとつらくなることもあるかもしれませんが、親子の強さと優しさにきっと救われることでしょう。

読書時間目安:5時間~6時間半程度(351ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「ピューリッツァー賞」って?
アメリカ合衆国において、新聞や雑誌などの報道、また文学や音楽などにおける優れた功績に対して贈られる賞です。合計で21部門存在します。

『ザ・ロード』は、2007年にフィクション部門を受賞しました。また、ジェイムズ・テイト・ブラック記念賞も授与されています。2009年には映画化もされています。

2017年ノーベル文学賞受賞『わたしを離さないで』 カズオ・イシグロ・早川書房(2005)

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【あらすじ】
キャシーは、提供者と呼ばれる人々の世話をする介護人。キャシーには、奇妙な少女時代を過ごした施設があった。その施設では友人たちと親しく過ごし、勉強もしていたが、先生たちはどこかよそよそしかった。外界から閉ざされた全寮制のその施設での過去を思い出しながら、キャシーは自身の出自や提供者たちの秘密を思い返す……。
自分の生も死も、あらかじめ運命が決まっていたら? 自分の人生の意味を考えたくなる、切ない物語。

閉ざされた世界で生まれ育った人生を思い返す形で物語が進む、シリアスな作品です。20年ほど前の作品ではありますが、登場人物たちの心情には現代的な感覚があり、親近感を覚えます。それゆえに、この物語が抱えるテーマに、自分の人生というものを考えてしまうことでしょう。

おすすめポイント

この作品は、自分の人生というものを改めて考えたい、という方におすすめです。自分たちの出生の秘密を知らずに育った主人公たちの気持ちと、どうして主人公たちのような子どもたちが必要とされているのかを考えると、とても切なく胸が締め付けられます。

自分が生まれてきた意味が、自分の考えていたものと違ったとき、主人公たちが示す反応は、あまりにも悲しく思えるかもしれません。しかし、それでも前を向く主人公たちに、感情が揺り動かされることでしょう。

全体として柔らかな語り口で、とても読みやすいです。また、シンプルな表現のために各シーンが心に残りやすいので、思い出の一冊になるかもしれません。

もしも自分が主人公たちの立場であったなら? と考えると、答えを出すのはとても難しいと思います。自分の人生の価値というものが揺らいでしまうとき、どのようにしたらいいのかを、この物語が考えさせてくれるでしょう。

読書時間目安:7時間半~8時間半程度(450ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「ノーベル文学賞」って?
ノーベル賞の1部門で、優れた文学作品を執筆した人物に贈られます。作品ではなく人物への授与であるのが特徴です。

『わたしを離さないで』を執筆したカズオ・イシグロは2017年にノーベル文学賞を受賞しました。『わたしを離さないで』はブッカー賞最終候補にもなっています。2010年には映画化、日本でも舞台やテレビドラマになりました。

2020年ヒューゴー賞受賞『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』 アマル・エル=モフタール、マックス・グラッドストン共著・早川書房(2019)

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【あらすじ】
戦争中のそれぞれの勢力のために工作をおこなうレッドブルーのふたりは、時間を行き来し、歴史を変えながら、お互いに対してメッセージを残し合っていた。最初は敵同士として揶揄するようなメッセージだったものが、少しずつ形を変えてかけがえのないものになっていく。やがてふたりの関係も変わっていき……。
時空の中に残されたお互いのメッセージ。やがて愛情へと変わっていくそのやりとりに、きっと胸が熱くなるでしょう。

時間や平行世界を行き来するSF作品です。ふたりの女性が手紙をやりとりするという物語の構成上、執筆においては、作者のふたりがお互いにレッドとブルーとなって手紙をやりとりするように書いたとか。なので、作中のレッドとブルーの反応は、フィクションの枠を超えた本物の感触があります。

おすすめポイント

この作品は、SF作品に挑戦してみたい、という方におすすめです。SF作品ではありますが、ストーリーがわかりやすいのでとても入り込みやすいと思います。物語としても長すぎず難しさをあまり感じさせないので、SFは初めてという方でも読み切ることができるでしょう。

とくに海外作品ではよくあることですが、本を開いてみると、「献呈」といって、「~に捧げる」というような言葉を見つけられることがあります。この作品もそのように献呈の言葉があるのですが、筆者はまずその言葉にしびれました。これは実際に本を開いてぜひ見てみてください。

文章としては平易な言葉遣いが多いですが、SF作品らしくなじみのない用語が出てきます。ふりがなやかっこ書きで補助してくれていますし、わからなくてもとりあえず大丈夫なので、レッドとブルーのやりとりに注目して読み進めてみてください。

著者ふたりが実際に手紙をやりとりするように執筆していったこの作品、こころの交流にきっと感動することができるでしょう。

読書時間目安:3時間~4時間半程度(280ページ)
※ページ数は、新書版でのページ数です。

「ヒューゴー賞」って?
前年に発表された作品の中から、優れたSFやファンタジーの作品や関連する人物に贈られる賞です。選考における審査員はおらず、一般のファンの投票によって決まるという特徴があります。

『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』は、2020年に中長編小説部門を受賞しています。前年の2019年には英国SF協会賞の中短編部門、同年にネビュラ賞中長編小説部門を受賞、そのほか多くの賞を受賞し、受賞候補などにもなりました。

1967年ネビュラ賞受賞『アルジャーノンに花束を』 ダニエル・キイス・早川書房(1966)

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【あらすじ】
知的障害がある青年チャーリイは、ある日、賢くなれるという手術を受ける。睡眠学習によって知恵を身につけながら、その過程を日記にしたためていくチャーリイ。ハツカネズミのアルジャーノンも同じ手術を受けており、ふたりはやがて天才並みの知能を手に入れる。そしてチャーリイは知能が高まるにつれて周囲の人々との関係も変わっていったが、しかし……。

最後に古典的名作をご紹介します。人工的に知能を高める手術を受けたチャーリイとアルジャーノンのふたりと、その周囲の人々との関係性もさることながら、チャーリイの変化に何も思わないではいられません。これまでこの作品はシックな花束の表紙が多かったのですが、新版のこの表紙はかわいらしく仕上がっています。その中におさめられた物語、ぜひ読んでみてください。

おすすめポイント

この作品は、古典的名作を読んでみたい、または物語の主人公の目を通した世界というものを見てみたい、という方におすすめです。日記形式で進むため、チャーリイの知能の変化や、それぞれの段階での世界の見え方などが生き生きと伝わってきます。

筆者は中学生のときに初めて読みましたが、その衝撃はいまだに忘れられません。

この作品は、チャーリイの日記を通してチャーリイの人生を体験する、という形式をとっています。最初は短かった日記も、知能が高まるに従って長く詳細になっていきますが、それが物語の終盤にさしかかるころには……。

この作品はできれば詳しい前情報なく読み進めてほしいと思います。そうして読み終えたとき、感じたことのない感情を覚えたら、ありのままに受け止めてみてほしいと思います。

この読後感はきっと唯一無二でしょう。映像化もされていますが、ぜひ読書によってしか味わえない思いを感じてみてください。

読書時間目安:7時間半~8時間半程度(464ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「ネビュラ賞」って?
アメリカ合衆国内で発表されたSFやファンタジー作品に贈られる賞です。アメリカのSFの賞において最も重要な賞とも言われており、「SFとファンタジーにとってのエミー賞」と言われています。「ネビュラ」は「星雲」の意味。

『アルジャーノンに花束を』は、1967年に長編小説部門を受賞しました。最初は中編小説として、後に改作し長編小説として発表されました。まだ中編小説だったころの1960年にはヒューゴー賞も受賞しています。1968年には映画化(邦題『まごころを君に』)、また日本でもテレビドラマなどになりました。

ビジュアルも物語も。どちらも素敵な作品を楽しんで

今回は、表紙もタイトルもおしゃれ、そしてもちろん内容もおもしろい作品をご紹介しました。

それぞれの表紙が気に入ったら、同じデザイナーやイラストレーターの別の本にも手を伸ばしてみてください。きっといろいろな世界に触れることができるはず。

表紙やタイトルに注目してみると、本に込められた思いをたくさん感じることができますよ。ぜひ素敵な読書時間を過ごしてくださいね。

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