読書をこよなく愛する筆者utoが、自分時間の充実した読書体験をご提案。今回は、じっくり腰を据えて読書したい、知的な冒険「ミステリー作品」を厳選してご紹介します。話題になったミステリーから、剣と魔術の世界で起こった殺人を追うミステリーまで、幅広くご紹介します。ぜひ挑戦してみてくださいね。

登場人物と一緒に推理に挑戦! 知的な冒険に出られるミステリー作品5選

登場人物と一緒になって、困難な状況や嬉しい出来事を共有できるのは、読書体験の醍醐味のひとつです。

本にはさまざまなジャンルがありますが、そのなかでもミステリー作品は、本文中に事件解決に必要な情報が散りばめられ、登場人物と一緒になって推理に挑戦できるという大きな魅力があります。

探偵役の華麗な推理に「そういうことだったのか!」と膝を打つのもよし、探偵役より早く真相に辿り着くのもよし。読後、真相を知ったあとにもう一度事件を眺めるのもまたよしです。そんな楽しみ方が無限にあるのがミステリー作品です。

今回は、そんなミステリー作品から筆者おすすめのミステリーを5つ厳選しました。秋の夜長の自分時間には、ぜひさまざまな事件に挑戦してみてくださいね。

第4回このミステリーがすごい!大賞受賞『チーム・バチスタの栄光』 海堂尊・宝島社(2006)

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【あらすじ】 
東城大学医学部付属病院で、不定愁訴外来ーー通称「愚痴外来」を受け持つ医師、田口公平。そんな田口が勤務するこの病院では、米国から招聘された桐生恭一を中心とした、バチスタ手術(心臓手術のひとつ)を専門におこなう「チーム・バチスタ」が存在していた。このチームの手術の成功率はなんと100%。しかし、このチームによるバチスタ手術で、連続術中死が発生してしまう。これは事故か? 殺人か? 桐生からの依頼で始まった田口の調査は、厚生労働省からやってきた白鳥圭輔によってどこへ導かれるのかーー。
事故か殺人か。まずそこに謎があるミステリー。事実をどう見極めるのか、ロジックによって情報を組み立てるミステリーの醍醐味を楽しんで!

病院内の手術室という密室で起こった、連続術中死の謎を追うミステリーです。ミステリーと言えば、事件があって、探偵役がいて、探偵役が解決まで導くというイメージがありますが、この作品は「そもそも殺人なのか?」という点が出発点になっています。ぜひ結論に至るまでを楽しんで!

おすすめポイント

この作品は、緻密に配置された情報を語り手とともに集めて一緒に推理したい、という方におすすめです。推理、というミステリーの楽しみ方の基本も体験できるし、破天荒な探偵役に振り回される楽しさも味わえます。

総ページ数は多いですが、話数も多く1話自体が短いので、読むのが苦になりません。ちょっとずつ読んでいけるのが嬉しいポイントです。

起こっている事態に対して、主人公・田口の性格を表すような軽いタッチ(ややコミカルな文体)なので、ミステリーは初めてという方でも負担にならずに読むことができます。過去と現在を頻繁に行き来しますが、書き分けが明瞭なので混乱しないで読めます。

起こったことが事故なのか殺人なのか、まずそこから始まる珍しい形のミステリーです。結論に対して自分が何を思ったかを見つめたあとに、登場人物たちのその後を見ると感慨深くなります。

痛快なミステリーとは違うかもしれませんが、読後感は清々しいです。

巻末のあとがきなどには関連作品も掲載されているので、このミステリーがおもしろかったという方は、ほかの作品も楽しんでみてくださいね。

読書時間目安:5時間~7時間程度(456ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「このミステリーがすごい!大賞」って?
宝島社、NEC、メモリーテックが2002年に創設した、ミステリー小説が対象の文学賞です。「このライトノベルがすごい!大賞」「このマンガがすごい!大賞」「日本ラブストーリー大賞」とならぶ、宝島社4大大賞のひとつでもあります。略称は「このミス」。

『チーム・バチスタの栄光』は2005年の第4回で大賞を受賞しました。2008年には映画化もされ、またテレビドラマやコンピューターゲーム、アプリゲームなどにもなりました。

第21回このミステリーがすごい!大賞受賞『名探偵のままでいて』 小西マサテル・宝島社(2023)

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【あらすじ】
小学校の教師をしているには、知性あふれる祖父がいる。その祖父は、レビー小体型認知症(DLB)を患ってはいるが、物語をつむぐことを大切にすることや、楓との関係は変わらないでいた。ある日楓は、ミステリーを愛した文藝評論家・瀬戸川猛資の評論集を手に入れる。しかし、その評論集の中には瀬戸川氏の訃報を告げる新聞記事が4枚も挟まれていて……?(「緋色の脳細胞」) 楓は同僚である岩田から、ある話を聞かされる。それは、岩田の後輩四季が体験したことだったーー。(「居酒屋の"密室"」)
知性あふれる祖父が繰り広げる、知的な推理に胸がドキドキ! 「日常の謎」というジャンルだと思わせておいて、何が起こるかわからないミステリーに、読む手が止まらなくなります。

連続短編形式のミステリーです。推理をおこなうのは、いわゆる「安楽椅子探偵」と呼ばれるタイプの、現場に赴くことなく第三者からの情報だけで真相に辿り着く名探偵。その名探偵は、なんと認知症を患っているという意外性を持っています。定番のミステリーも、意外な展開も、どちらも味わいたいならぜひ読んでみてくださいね。

おすすめポイント

この作品は、オーソドックスな展開も、意外な展開も、どちらも味わいたいという方におすすめです。連作短編のミステリーで、人が死なないミステリー、いわゆる「日常の謎」と呼ばれるカテゴリー……の顔をした、なにが起こるかわからない冒険的なミステリーです。

シーンのほとんどは室内での会話で成り立っているのですが、まるで知的な冒険に出かけているかのような気分を味わえます。

孫の楓と、レビー小体型認知症(DLB)を患った祖父のやりとりで物語が展開されていきます。全体として楓と祖父の関係を表すように穏やかな空気感で話が進みます。だからこそ、異変が起こったときの不穏さは格別に強いです。

前述の『チーム・バチスタの栄光』が、じっくり情報をそろえて読みたくなるミステリーなのに対して、こちらは次から次へ巡りくる出来事に、「もっと次を!」とねだるように一気読みしたくなってしまうタイプです。

レビー小体型認知症に特有の幻視を伴いながら語られる、知性あふれる祖父の明朗快活な推理に、とても胸がドキドキしてしまいます。

知的な名探偵がお好きなら、ぜひおすすめしたい作品です。最高のドキドキを体験してくださいね。

読書時間目安:4時間~5時間半程度(404ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「このミステリーがすごい!大賞」って?
宝島社、NEC、メモリーテックが2002年に創設した、ミステリー小説が対象の文学賞です。「このライトノベルがすごい!大賞」「このマンガがすごい!大賞」「日本ラブストーリー大賞」とならぶ、宝島社4大大賞のひとつでもあります。略称は「このミス」。

『名探偵のままでいて』は、2023年の第21回で賞を受賞しました。続編に、『名探偵じゃなくても』

第64回日本推理作家協会賞受賞『折れた竜骨』上・下 米澤穂信・東京創元社(2013)

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【あらすじ】
ロンドンからほど遠い場所に浮かぶソロン島。そのソロン島の領主の娘・アミーナは、ある日、ファルク・フィッツジョンニコラ・バゴという二人組の旅人と出会う。ファルクはアミーナの父・ローレントに、暗殺騎士と呼ばれる恐ろしい存在が命を狙っていると告げる。そして翌日、作戦室で命を落としたローレントの姿が発見されてしまうのだった……。
実際に殺人を犯したのは暗殺騎士に操られた〈走狗〉という存在。だれが〈走狗〉なのか? そして自然の要害に囲まれた場所で、どのようにして殺人がおこなわれたのか? 剣と魔術が実在する世界でなされた殺人事件。果たして論理は魔術を打ち破ることができるのか? ファンタジーもミステリーも。最高にわくわくするミステリーです。

剣と魔術が実在するファンタジー世界で、殺人事件を追うミステリーです。文庫版では上・下巻に分かれているので、見た目は長く感じるかもしれませんが、読書中は時間を忘れてしまうほど。ファンタジーも好きだけど、ミステリーも読んでみたい! という方にはとくにおすすめしたい作品です。

おすすめポイント

この作品は、現実にはない魔術などの要素を取り入れた、ファンタジー世界でのミステリーを体験したいという方におすすめです。ミステリーらしい雰囲気は最初はないものの、読んでいるうちに作者が張り巡らせた物語の中に絡め取られていて、気づくと推理のただ中にいることができます。

剣と魔術の世界感が、あまりにもリアリティのあるなかで描かれるので、かつて本当にこういう世界があったのかもしれないと思わせてくれます。

描写や言葉選びが丁寧なので、ミステリーに限らず本を読み慣れていない人でも、何を言っているのかわからないということにはならないはず。とくに状況や心理の描写が秀逸で、経験もしていない感情であっても想像できてしまうすごさがあります。

だからこそ、物語に引き込まれてしまい、読後もそこから抜け出せないほどのインパクトを受けることができます。

ファンタジーもミステリーもどちらも味わえる作品ではありますが、とくに下巻に入ってからの怒濤の展開は、読む手を休めるのがもったいなくなるほど。「ミステリーの登場人物は嘘をつくが、真実な情報にはどこまでも誠実」という、ある種ミステリーでは当たり前ともいえることを本当に実感できるでしょう。

真相かつ深層に辿り着くまでの道のりのすべてに読みがいがあるので、ラストまで一気読みしたい作品です。

読書時間目安:上下巻合計で5時間~6時間半程度(上巻290ページ・下巻264ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「日本推理作家協会賞」って?
毎年、日本推理作家協会がおこなっている文学賞です。その年で最も優れている推理小説に贈られます。日本推理作家協会は、探偵作家クラブという、江戸川乱歩が中心となって設立した団体が前身です。

『折れた竜骨』は、2011年の第64回で賞を受賞しました。また、第11回本格ミステリ大賞候補、第24回山本周五郎賞候補となりました。コミカライズもされています。

第5回ミステリース!新人賞受賞『叫びと祈り』 梓崎優・東京創元社(2013)

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【あらすじ】
海外の動向を雑誌で伝える会社に勤める青年・斉木は、情報の信憑性を高めるため、世界中を飛び回って取材する日々を送っている。あるとき、砂漠を行くキャラバンに同行し、その生活ぶりを取材することになった。塩を運ぶ帰り道、砂漠の真ん中で、動機不明の殺人事件が起こりーー!?(ミステリース!新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」) は、ある女性を目の前で失ってしまったーー風車に入った彼女を。そんな傷心の僕を、友人の斉木とヨースケは旅行に誘ってきて……。(「白い巨人」)
異国をめぐって出会う謎、そこで展開される異世界の論理。理解ができない、したくない、それでも受け入れるか、否か。青年・斉木とともに歩む、謎めいた異世界紀行に出かけよう。

連作短編形式のミステリーです。青年・斉木とともに世界を巡るのは、最高にドキドキする体験になるはず。そこで繰り広げられる論理は、日本にいると想像もできないものばかり。まさに異世界と呼びたくなるような異国の論理に、斉木とともに対峙するのは、苦しみとともに他者への誠実をも思い起こさせるでしょう。

おすすめポイント

この作品は、自分の常識の外側──異世界とも言える場所の論理に触れてみたい、という方におすすめです。前述の『名探偵のままでいて』のような典型的な安楽椅子探偵とは真逆を行く、実際に現地へ向かってから事件に巻き込まれる探偵役が見られます。

探偵役である青年・斉木とともに世界と謎を巡るのは、読書という経験でしか味わえない、文字とイマジネーションの旅になります。文章の扱いが巧妙で、その場にいるような臨場感と、「まさかそんな!」という驚きとが味わえます。

映像がイメージしやすい鮮やかな文章ですが、それゆえに謎に翻弄されますし、そういった「謎に振り回される」というミステリー特有の楽しみも存分に体験できます。ひとたび読み始めれば、推理に必要な情報がすべて明らかなのにも関わらず、じつに鮮やかな欺きに驚かされることになります。

その巧妙かつ鮮烈な欺きは、ミステリーを読むのが初めてという人にとって、これ以上ない楽しさに繋がると思います。

もちろん世界をめぐるという性質上、どうしても避けられない悲しみにも直面しますが、斉木とともに歩むことで、それらを一緒になって乗り越えることができるでしょう。

読書時間目安:4時間~5時間半程度(334ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「ミステリーズ!新人賞」って?
東京創元社主催の、ミステリーの短編が対象となる文学賞です。未発表の短編推理小説のなかから、優れた文章や仕掛けがあり、輝きのある作品を募集する公募新人賞です。

『叫びと祈り』に収録の「砂漠を走る船の道」は、2008年の第5回で賞を受賞しました。「砂漠を走る船の道」が収録されている『叫びと祈り』は、ミステリーベスト10国内部門第2位となったり、本屋大賞にノミネートされるなど大きく評価されました。

第134回直木賞受賞『容疑者xの献身』 東野圭吾・文藝春秋(2005)

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【あらすじ】
数学教師の石神は、隣人の花岡靖子が働く弁当屋で弁当を買うのが習慣になっている。彼女への特別な感情を抱きながら……。ある日、靖子のもとへ別れた夫の富樫慎二が現れる。切羽詰まった靖子は、自宅で富樫を殺害してしまう。隣人である石神はその殺人を知って、靖子を助けることを決意するーー。
天才数学者の石神が組み立てた殺人事件に、友人で天才物理学者の湯川学が挑む。湯川がたどり着いた推理は、石神の完全犯罪に届くのか? その献身に全身が震える。「ガリレオ」シリーズ初の長編。

これまで短編集として刊行されていた「ガリレオ」と呼ばれるシリーズ、その初の長編となる作品です。途中で湯川と同じ推理にたどり着いたとしても、つかなかったとしても、石神の完全犯罪を前に愕然としてしまうでしょう。最後の最後まで、目を離すことができない作品です。

おすすめポイント

この作品は、読書を通して言葉にならない感情を経験してみたい、という方におすすめです。事件の発端を知っているにもかかわらず、登場人物の交錯する感情や、次々と明かされる情報に翻弄されてしまいます。とくに後半に入ってからはノンストップで読みたい作品です。

登場人物たちの強い感情に触れるとき、この物語は本当の意味で襲いかかってきます。襲いかかる、という表現は適切ではないかもしれませんが、そういう表現を使いたくなるほどのものが待っているのです。

単純な、悪く言えばありきたりな出発点から始まった殺人が、「まさかここまで!」という展開を見せるので、「読んでいて楽しい」を超えた感情が呼び起こされます。

自分がこの人物であったならどうするか? と問い始めると、答えを出すのに苦悩してしまうかもしれません。ですが、その苦悩してでも見つからない答えを探すのもまた楽しみの一つ。

それは答え探しであるミステリーというジャンルとは矛盾するかもしれませんが、そういったことも含めて、読者という立場からこの物語を受け止めてほしいと思います。

読書時間目安:4時間半~5時間半程度(394ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「直木賞」って?
直木賞は、大衆性を押さえた長編小説または短編小説集に与えられる文学賞です。大正時代から昭和時代にかけて名をはせた人気作家直木三十五が名前の由来。上半期と下半期の年2回あります。

『容疑者xの献身』は、2005年下半期の第134回で賞を受賞しました。2006年には本格ミステリ大賞をとりました。さらに、受賞は逃しましたが日本人史上2度目のエドガー賞候補となりました。テレビドラマ「ガリレオ」シリーズの劇場版として2008年に映画化もされています。

事件の果てに見えるものを、ぜひ楽しんで

今回は、エンタメ小説のなかでも、ミステリーに絞ってご紹介しました。

どれも読んでいてさまざまな感情を呼び起こされる作品ばかりです。自分時間に、知的な冒険に出るのはいかがでしょうか。ぜひさまざまな事件に挑んでみてくださいね。

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