読書をこよなく愛する筆者utoが、自分時間の充実した読書体験をご提案。本を読みたいけれど、何を読んだらいいかわからない。そんなときは、文学賞を受賞して話題になった本を手に取ってみるのもおすすめです。今回は切なさが魅力の受賞作品を5つ、ピックアップしてご紹介します。読書体験の足がかりにしてみてくださいね。

そもそも「文学賞」とは?

本は読みたいけど、そもそも何から読めばよいのか分からない……。そんな方も多いのではないでしょうか。

読書はストレス解消にとてもよく、加えてリラックス効果もあるので、できることなら自分時間に読書するのを習慣にしていきたいものですよね。

そこでおすすめしたいのが、文学賞の受賞作品。有名な本がたくさんあるので、作品探しの足がかりとしてぴったりです。

文学賞とは、優れた文学作品やその作者に与えられる賞のこと。大きく下記の3種類に分けられます。

1. アマチュア作家による未発表の作品を公募して選考する「公募新人賞」

【代表的な賞】

  • 文學界新人賞:公募新人賞のさきがけ的存在で、第1回受賞者は石原慎太郎
  • 群像新人文学賞:W村上と呼ばれる、村上龍と村上春樹を輩出
  • 文藝賞:芥川賞作家を多く輩出する賞で、綿矢りさなども受賞者など

2. 刊行済みのすでに発表されている作品が対象の「公募以外の文学賞」

【代表的な賞】

  • 芥川賞:正式には芥川龍之介賞で、無名または新人の作家に与えられる純文学新人賞の最高峰
  • 直木賞:正式には直木三十五賞で、芥川賞とともに注目される知名度も人気も高い賞
  • 本屋大賞:書店員のみが投票する個性的な文学賞で、キャッチコピーは「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本」など

3. こどもたちを読者とした作品に与えられる「児童文学賞」

【代表的な賞】

  • 青い鳥文庫小説賞:こどもたちのあいだで人気の高い、青い鳥文庫による公募新人賞
  • 赤い鳥文学賞:鈴木三重吉を記念して作られた「赤い鳥の会」主催で、佐藤さとるなども受賞者
  • 小学館児童出版文化賞:文学部門と絵画部門からなる賞で、主な受賞者にあさのあつこなど

※児童文学賞にも公募と公募以外の文学賞の2種類があります。

こうした国内の文学賞だけではなく、国外の文学賞も含めると、世の中には本当に多くの文学賞が存在しています。

胸に迫る、切なさを感じる作品5選

今回は文学賞のなかでも、秋の夜長に読みたい、ちょっと切ない雰囲気を持つ作品に焦点を当て、おすすめしたい作品を5つご紹介します。

ご紹介するのは、どれも胸に迫る切なさが魅力です。ほかにもたくさんの魅力が詰まっているので、ぜひ読んで作品の世界にひたってみてくださいね。

あまり読書をしたことがない、または読んだことがない作品を読みたい方のために、おおまかな読書時間の目安もそえておきます。

初めての作品に触れるときは読み終わるまでに時間がかかりますので、読書に慣れていないという方は目安時間に1時間ほどプラスして、読書の計画を立ててみてくださいね。

第55回読売文学賞受賞 『博士の愛した数式』小川洋子・新潮社(2003)

Instagram

www.instagram.com

【あらすじ】
家政婦のが組合から派遣された先は、記憶が80分しかもたない元数学者博士の家。メモだらけの博士の服には「僕の記憶は80分しかもたない」というメモが。実際、博士にとって私は「新しい家政婦」としてつねに初対面だった。
しかしある日、このどこかぎこちない関係に、私の10歳の息子が加わることになる。息子の頭をなでた博士は息子にルートというあだ名をつけ、その日から、この3人の新たな関係が始まった……。
随所にちりばめられた数字と数式、そしてそれらと響きあう3人の愛に満ちた関係。きっと切なく胸に迫ってくることでしょう。

交通事故によって記憶が80分しかもたない元数学者の博士と、その新たな家政婦としてやってきた、そしてその息子ルート。この3人のこころの交流を描いた作品です。数式とともに描かれる、美しくあたたかな物語。最後の一文字まで大切に読みたくなります。

おすすめポイント

この作品は、優しさにあふれた作品を読みたい方にとくにおすすめです。作品の中の穏やかな時間とともに、読書中も同じような穏やかな時間を感じることができます。

本を読みなれていない人にも読みやすい文体でつづられる、それぞれに傷を抱えた3人のこころが溶け合っていくさまを感じるのは、特別な経験になるでしょう。本のボリュームも控えめなので、読み切るまで時間がかかりすぎないのもポイントです。

文体もやや淡々としているがゆえに、主人公たちの感情がくっきりと浮かび上がってきます。ラストシーンに向かっていくときは、最後の一文字を読むまで、この物語がどんなにあたたかいものなのかを思い起こさせてくれます。

また、読んでいるうちにとても優しい気持ちになることができます。読後も切なさとあたたかさを同時に感じることができるので、ぜひその余韻にひたってみてほしいと思います。

読書時間目安:2時間~3時間半程度(291ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「読売文学賞」って?

戦後の文芸復興の一助として1949年に発足しました。「小説」「戯曲・シナリオ」など全6部門において、過去1年間で最も優れた作品が選ばれます。

『博士の愛した数式』は、2004年の第55回で賞を受賞しました。同年の第1回本屋大賞も受賞しています。そして2006年には映画化もされました。

第13回本屋大賞受賞 宮下奈都『羊と鋼の森』宮下奈都・文藝春秋(2015)

Instagram

www.instagram.com

【あらすじ】
17歳、高校2年生のとき、主人公の外村は、ひょんなことからピアノ調律師の板鳥と出会う。板鳥のピアノの調律に魅せられた外村は調律師を目指し、念願叶って板鳥の所属する事務所に入ることに。しかしなかなか調律が上達せず、音楽的な素養もないと思っている外村は、日々調律について悩み続ける。ある日、先輩調律師のに同行した先で、和音由仁というふたごと出会う……。
ピアノと音楽、そして人生の困難。駆け出し調律師の外村の成長をとおして、困難ななかでも希望を見いだす大切さを感じることができるでしょう。

調律という仕事を通して、ピアノやピアノを弾く人々、また先輩の調律師たちとの関係を深めていく、外村の成長を描いています。踏み込んだ世界の中から希望を探し出すことの、難しさと尊さを感じることができるでしょう。

おすすめポイント

この作品は、登場人物の成長を通して自分の成長も感じたい、という方におすすめです。読書中、物語のなかに入り込むのに難しさを感じないほど、穏やかな文体で書かれています。比喩表現は多めですが、そのひとつひとつが丁寧で、そのすべてが胸を打ちます。

さまざまな登場人物がそれぞれに抱えているものをしっかりと想像することができる、丁寧な描写が魅力です。人間はそれぞれに違いがあって、だからこそこころが響き合うことができるということを感じることができます。

どんな世界に足を踏み入れたとしても、その世界の中から希望を探し出すことの尊さを考えさせてくれます。人生の難しさに直面したとき、この物語を思い出したくなる、そんな作品です。

『博士の愛した数式』と同じくらいのボリュームなので、ほどよい時間で読み切ることができます。

読書時間目安:2時間~3時間半程度(274ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「本屋大賞」って?

本屋大賞は2004年に設立された文学賞です。この文学賞は、書店員さんたちの投票で決まるという特徴があります。

『羊と鋼の森』は、2016年に第13回本屋大賞で大賞に選ばれました。また、前年の2015年には第154回直木三十五賞の候補作にも選ばれています。2018年には映画化もされました。

第10回小学館文庫小説賞受賞 『神様のカルテ』夏川草介・小学館(2009)

Instagram

www.instagram.com

【あらすじ】
地方に位置する本庄病院で医療に当たる医師、栗原一止。彼が勤務する病院は24時間365日対応を掲げているので、激務を極める毎日だった。彼の周囲にいる人々は、一筋縄では行かない個性の持ち主ばかり。そんな一止のもとには大学病院の医局への誘いがあったが、どうするべきか決めかねる日々。そんな日々の中で、以前より一止の担当であった入院患者の安曇さんは、病院勤務の一止たちの癒やしの存在であったが……。
コミカルなタッチでありながらシビアな現実を描ききる物語は、きっと深く胸に残るでしょう。

『羊と鋼の森』と同じく、いわゆるお仕事ものの小説です。作者は実際に医療に携わるお医者さんなので、医療シーンのリアリティは圧巻です。主人公の栗原一止をはじめとした、登場人物たちの苦悩や喜びは、人生の賛歌として胸に響いてくるでしょう。

おすすめポイント

この作品は、感動的な作品と出会いたい、または登場人物たちのその後の物語も読んでみたい、という方におすすめです。医療小説ですがとっつきにくさはなく、書き出しから物語の中にスッと入り込ませてくれます。

主人公の夏目漱石好きが反映された古風な文体で書かれているため、最初は面食らうかもしれませんが、ユーモアあふれる表現の数々もあって、読みやすさはピカイチです。

ですが、その中にシビアな現実が立ち現れてくるので、こころが揺さぶられるシーンも……。社会に生活する人として生きること、それと同時に命を持つ人として生きること、いろいろなことを考えることができます。

『博士の愛した数式』や『羊と鋼の森』と比べるとユーモアが多めで軽いタッチです。ボリュームもやや控えめとなっています。エンタメ小説ふうのリズム感で描かれるそれぞれの生き方や終わりの迎え方のありようは、きっと深く胸に残ることでしょう。

この作品には続編があり、全5冊が刊行されています。登場人物たちのその後が気になったら、続きも読んでみてくださいね。

読書時間目安:2時間~3時間程度(252ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「小学館文庫小説賞」って?

小学館が2002年から2019年までに主催していた公募新人賞です。「ストーリー性豊かなエンタテイメント小説」をジャンルを問わず広く公募していました。

『神様のカルテ』は第10回の小学館文庫小説賞を受賞しました。2010年第7回本屋大賞では2位を獲得しています。2011年と2014年に映画化、2021年にはドラマ化されました。

第8回山本周五郎賞 『閉鎖病棟』帚木蓬生・新潮社(1994)

Instagram

www.instagram.com

【あらすじ】
入院施設のあるとある精神科病棟には、さまざまな人生を抱えた患者たちが集まっていた。それぞれに過去と困難を抱えながらも、日常のなかに喜びや楽しみを見いだそうと懸命に生きている。そんな患者のひとりであるチュウさんは、同じ入院患者の昭八ちゃん敬吾さん秀丸さん、外来にやってくる島崎さんと穏やかな時間を過ごしていた。しかしある日、平穏な日常を破る事件が発生する……。
淡々としながらもそれぞれの人生が胸に響く。絶賛を浴びた結末は、きっといつまでも胸に残ることでしょう。

『神様のカルテ』と同じく、現役のお医者さんが執筆した作品です。作者が精神科医ということもあり、患者たちの生活ぶりにはとてもリアリティがあります。人生は難しい、しかしそれゆえに支え合うことができるということを、こころから感じることができるでしょう。

おすすめポイント

この作品は、人生の喜びや悲しみを読書を通して感じたい、という方におすすめです。全体的に心理描写や比喩表現は控えめで淡々としていますが、それゆえに描かれている事実が胸に響きます。『神様のカルテ』と同じく病院での物語でありながら、流れている空気感は全く違うので、最初は重たく感じるかもしれませんが、読みなれてくるととてもあたたかい文体に感じられると思います。

登場人物たちのそれぞれの人生に胸が締め付けられるシーンも多くあります。手放しで共感できないところもありますが、困難を抱えて生きるということを真剣に考えるきっかけになってくれる本だと思います。

悲しみも喜びも淡々としているがゆえに、ラストに向かうシーンの数々は鳥肌が立つほど感動します。シリアスな雰囲気とあたたかな空気感がうまく同居しているので、これから重厚な作品も読んでいきたいと思っている方にもおすすめです。

そこそこページ数があるので、腰を据えてゆっくり物語にひたりたい人向けです。

読書時間目安:3時間半~5時間程度(361ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「山本周五郎賞」って?

山本周五郎賞は、昭和の時代に活躍し名を残した山本周五郎の名を冠した文学賞です。優れた物語性を持つ作品に贈られます。

『閉鎖病棟』は、1995年に第8回山本周五郎賞を受賞しました。2001年と2019年には映画化もされています。

第117回直木賞受賞 『鉄道員(ぽっぽや)』浅田次郎・集英社(1997)

Instagram

www.instagram.com

【あらすじ】
北海道にある廃線間近の終着駅で駅長をしている佐藤乙松は、娘が亡くなった日も、妻が亡くなった日も、仕事で駅に立ち続けていた。自身を「ポッポヤ」と言い、ポッポヤならばこうするよりほかにないと言う乙松のもとに、ある日少女が訪れて人形を忘れていく……(『鉄道員(ぽっぽや)』)。出所直後の吾郎のもとに、妻が亡くなったという知らせが。50万円で契約結婚した、会ったこともないその女性のもとへ駆けつけることになるが……(『ラブ・レター』)。
8編の物語が織りなす、こころ揺さぶる物語。多くの物語に触れることができる短編集を、ぜひ読んでみてくださいね。

最後は、短編集のご紹介です。これまでの4冊は長編小説でしたが、短い物語を詰め込んだ短編集も、1冊でさまざまな世界に触れることができるため、とても楽しく読書できます。まだ本を読み慣れていないから、短いお話から挑戦していきたい、という方にもおすすめです。

おすすめポイント

この作品は、1冊の本でいろいろな物語を楽しみたい、またはあたたかな物語に触れたい、という方におすすめです。雰囲気の穏やかな話が多く、癒やされたいときにもぜひ読んでほしいと思います。あたたかいだけではなく、不思議な話も含まれていて、短編集としてとてもバラエティ豊かです。

全体として、あたたかな文体でありながらも、出来事の描写はあっさりとしているので、テンポよく読んでいくことができます。それだけではなく、不穏さ、悲しみや後悔などもしっかり描かれているからこそ、登場人物たちのこころにリアリティを感じることができます。

登場人物たちの主義や主張に触れたとき、その人たちの人生を感じることができるほど、セリフの言葉遣いが素晴らしいです。物語を俯瞰して眺めるよりも、入り込むように読書したいときにおすすめしたいです。

ページあたりの文字数が控えめで、総ページ数に対して早めに読み終えることができるため、まだ読書経験の浅い方にもおすすめです。長編小説に挑むまえに、短編集で読書になれていくこともとてもよいと思います。

読書時間目安:3時間~4時間(304ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「直木賞」って?

直木賞は、大衆性を押さえた長編小説または短編小説集に与えられる文学賞です。大正時代から昭和時代にかけて名をはせた人気作家直木三十五が名前の由来。上半期と下半期の年2回あります。

『鉄道員(ぽっぽや)』は、1997年上半期の第117回直木賞を受賞しました。同年の第16回日本冒険小説協会大賞特別賞も受賞しています。また、1999年には映画化もされ、ドラマや舞台などにもなりました。

秋の夜長に、自分時間を作って読書をぜひ

今回は、切なさが魅力の作品を5冊、ご紹介しました。

これは筆者の個人的な経験談ですが、よい読書体験のコツは、「この本はいい本だ」という先入観を持って読み始めることです。きっと素直な気持ちで作品の世界に入っていくことができるでしょう。

好きな場所で、ゆっくりと読書の秋。どうぞ楽しんでくださいね。

読書にぴったりのおすすめスポット情報はこちら

This article is a sponsored article by
''.