2026年3月27日は生誕から103年! 遠藤周作の小説5選
3月になりました。ぽかぽか陽気の日も増えてきて、だんだんとお出かけの楽しい季節となってきましたね。
しかし、春と言えば花粉症……という方もいらっしゃるのではないでしょうか。外に出るのがつらくてついついおこもり……なんていう日もあるかもしれませんね。そんなおうちでのご自愛時間に、読書はいかがでしょうか。
今回は、2026年9月に没後30年を迎える遠藤周作の作品を、5つ厳選してご紹介します。筆者イチオシ作家のひとりである遠藤周作は3月が誕生月ですので、この機会に挑戦してみてもいいかもしれません。
遠藤周作は、1923年3月27日(火)に生まれ、1996年9月29日(日)に亡くなりました。
遠藤は「第三の新人」という世代に位置づけられる小説家です。「第三の新人」は、ヨーロッパ風の長編小説が主流であった第一次・第二次戦後派作家よりあとに登場した、かつての日本的な小説スタイルへ回帰した人々のことを指します。
「第三の新人」は、戦後すぐの第一次・第二次戦後派作家に多く見られるような、“政治や文学に対する問題提起”、“自分は誰なのか? というテーマ”、“現実感や私小説への反発”、といった特徴があまりないという傾向があると思います。
私小説や短編小説などといった、どちらかといえば戦前の日本において主流であったスタイルへ、作品の雰囲気が大きく変わった時期の作家と言えるかもしれません。
遠藤周作は、子ども時代にキリスト教の洗礼を受けたことが人生に大きな影響を及ぼし、“日本人とキリスト教”というテーマを追究した作家でした。
その作品のなかには印象的なフレーズも多いので、もしかしたら気に入る一文が見つかるかもしれませんよ。
そんな遠藤周作が生誕100年を迎えた2023年には、大々的にイベントが展開されたことも。没後30年となる今年も、ゆかりのある地域や各地の文学館などでたくさんのイベントがあるかも。
興味を持って作品に触れるのにいい時期だと思います。ぜひ、遠藤作品を楽しんでくださいね!
第2回谷崎潤一郎賞受賞『沈黙』 遠藤周作/新潮社(1966)
【あらすじ】
江戸時代初期、日本。布教に来ていた司祭・フェレイラが、じつに熱心な人物であったにもかかわらず、過酷な弾圧によって棄教してしまいます。「フェレイラが転んだ(=キリスト教を捨てた)」という知らせがローマにも届き、それが信じられない若き司祭のロドリゴは同僚とともに日本を目指して出航。フェレイラの教え子であった彼らは、立ち寄ったマカオでキチジローという軟弱な日本人と出会って……。
最初に、遠藤周作といえば! という作品をご紹介します。海外でもかなり有名な作品なので、もしかしたらタイトルを聞いたことがある方もいるかもしれませんね。“日本人とキリスト教”というテーマを、生涯にわたって追い求めた遠藤周作。この作品は、そんな彼の到達点のひとつであると思います。
おすすめポイント
この作品は、遠藤周作の代表作に触れたい、という方におすすめです。
本書『沈黙』に加えて、『海と毒薬』と『深い河』は、遠藤周作の代表作として挙げられることが多い3冊です。遠藤作品をまず手に取るなら、この3冊からがおすすめです。
日本人にとって縁遠いように思われている、キリスト教。じつはフランシスコ・ザビエルが布教してからしばらくはかなり信者が多く、40万人から60万人ほどいたと思われています。当時の人口がいまの10分の1以下であったことを考えると、大変な人数だったはずです。
しかし、天下を統一した豊臣秀吉、そののちに政治をおこなった徳川家康などの徳川家による迫害が起こり、多くの宣教師たちが国外へ退去させられます。一方でこの時期に潜伏を続けて布教を続けた人々がいました。『沈黙』は、この人々と日本人を描いた作品ということになります。
その潜伏していた宣教師のひとりにフェレイラという人がいて、この人は史実に残っている実在の人物です。日本にやってきたのは1609年のこと。
そのフェレイラの弟子という設定の主人公・ロドリゴ(モデルはジュゼッペ・キアラという人だそうです)が、軟弱な日本人・キチジローや、宗門改役(しゅうもん あらためやく)の井上筑後守政重(いのうえ ちくごのかみ まさしげ)、師のフェレイラと関わり、日本でどのような決断をしていくのか……というストーリー。
“神の沈黙”をテーマにしていると言われることも多い本作ですが、遠藤自身は「踏み絵を踏んでしまうような弱者に対する“歴史の”、“教会の”、“日本人の”沈黙」を描いたと言っています。弱者の嘆きや悲しみに声を与えるのが小説家の仕事と言った遠藤。ぜひ、読んでみてくださいね!
読書時間目安:5時間半~6時間半程度(320ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「谷崎潤一郎賞」って?
時代を表す小説や戯曲を対象に選考され、選考委員の合議をおこなった上で年に1度発表されます。小説家の谷崎潤一郎にちなんで創設されました。
『沈黙』は、1966年の第2回で受賞しました。1971年と2016年に映画化され、2016年版はアマプラなどでも見ることができます。小説の舞台となった長崎には作品にちなんだ「沈黙の碑」がある遠藤周作文学館があります。
第12回毎日出版文化賞・第5回新潮社文学賞受賞『海と毒薬』 遠藤周作/新潮社(1957)
【あらすじ】
少し陰気な雰囲気のある医師、勝呂(すぐろ)。彼は太平洋戦争中、F市にある大学病院で医師をしていたことがあります。当時、受け持っている患者たちに哀れみの心を持つこともあった勝呂でしたが、患者を手術で死亡させてしまった教授の名誉挽回のためにおこなわれることとなった人体実験ーーB29搭乗員を生きたまま解剖する、という実験に同席することとなって……。
こちらは「神を持たない日本人の罪の意識」をテーマとした、遠藤周作の代表作のひとつです。実際に起こった事件、九州大学生体解剖事件をモデルとして、日本人の罪の意識を描き出そうとしたこの作品、ヘビーではありますが一読の価値ありだと思います。
おすすめポイント
この作品は、短い作品から遠藤周作に触れてみたい、という方におすすめです。
上記の『沈黙』が300ページを超えるのに対して、こちらの『海と毒薬』は200ページほどと比較的薄めです。遠藤周作の作品に共通することではありますが、難解でもないので、かなり読みやすいと思います。
作品のモデルとなった九州大学生体解剖事件は、福岡県福岡市にあった九州帝国大学(現在の九州大学)医学部で、1945年にアメリカ人捕虜が生きたまま解剖されてしまったという事件です。かなりショッキングな事件ですが、遠藤周作は事件そのものよりも事件を通して日本人を描きたかったと話しています。
その言葉のとおりに、作品冒頭に出てくる勝呂の男性患者から、主人公である勝呂、解剖をおこなう教授たちにいたるまで、どこか「日本人らしい日本人」という雰囲気があります。なんとなく、「普通の日本人」という感じがあるのです。
決して特別ではない彼らが、とんでもない罪を犯してしまう。そのことが、かなり衝撃的な作品なのだと思います。
『海と毒薬』は、続編として『悲しみの歌』というものがあります。『悲しみの歌』では勝呂のことがもっと深掘りされている以外にも、登場人物たちの悲哀が非常によく描かれていますので、ぜひこちらも読んでみてください。個人的には、『海と毒薬』を超える作品だと思っています。
読書時間目安:3時間半~4時間半程度(208ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「毎日出版文化賞」って?
毎日新聞主催の、優秀な出版物を表象する文学・文化賞です。1947年に創設され、毎年11月に受賞者が発表されます。
「新潮社文学賞」って?
新潮社四大文学賞のひとつです。1967年に終了し、1969年から開始の日本文学大賞に引き継がれています。
『海と毒薬』は、1958年に第12回毎日出版文化賞と第5回日本文学大賞を受賞しました。1986年に映画化され、第37回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞しています。
第33回野間文芸賞受賞『侍』 遠藤周作/新潮社(1980)
【あらすじ】
長谷倉六右衛門は、ある日藩主に新書を託されて、ローマ法王の元へ旅立ちます。同行したのは通訳も兼ねた案内人、宣教師ベラスコ。メキシコやスペインを通る過酷な旅になり、ついには「お役目達成のため」、ローマで受洗(洗礼を受けキリスト教徒になること)を迫られます。そうして故国へ戻った長谷倉でしたが、日本はキリシタン禁制、鎖国の状況となっていて!?
こちらは慶長遣欧使節・支倉常長(はせくら つねなが)をモデルとした「侍」が主人公の作品です。この作品では、“強い者”と“弱い者”のコントラストが見事に描かれているので、胸に迫るような読書体験ができると思いますよ。
おすすめポイント
この作品は、遠藤周作が挑んだテーマに自分も挑戦してみたい、という方におすすめです。
『沈黙』が“弱い者”にフォーカスした作品なら、こちらは“強い者が持つ弱い部分”と“弱い者が持つ強い部分”にフォーカスした作品だと思います。強い者と弱い者、それがこの作品のテーマと言えるでしょう。
『沈黙』は長崎で踏み絵を見た経験から書かれた小説ですが、『侍』は仙台で支倉常長の肖像を見て思いついたといいます。その支倉常長の顔が、なんとも言えず暗く、悲しいものに見えて、「どうしてこんなに悲しそうな顔をしているんだろう?」と思ったのがきっかけとか。
歴史に残っている支倉常長は、伊達藩の英傑として名をはせているので、その名前を聞いたことがある人もいるかもしれません。しかし遠藤に言わせると、「運命に従っていっただけの弱虫」だそう。そういう弱い人間の強い部分がちらりと見えたとき、この作品の感動的な部分が光るのかもしれません。
支倉はヨーロッパに渡り、お役目(貿易にこぎ着けること)のために、キリスト教が何かもわからないのに受洗します。遠藤は、その「何かもわからないのに受洗する」ということが、自身の11歳の時の洗礼経験と重なって思えたのだそうです。
そうして遠藤自身を重ね合わせて描いた長谷倉六右衛門という侍が、どのような運命をたどるのか、ぜひ注目してみてください。
読書時間目安:8時間半~9時間半程度(512ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「野間文芸賞」って?
野間三賞と呼ばれるもののひとつで、講談社の初代社長、野間清治の遺志で創設された財団法人野間文化財団が主催する賞です。現在は中堅以上の作家による、小説・評論に対して贈られています。
『侍』は、1980年の第33回で受賞しました。『遠藤周作文学全集』には、『死海のほとり』と一緒に収録されています。
国際ダグ・ハマーショルド賞受賞『イエスの生涯』 遠藤周作/新潮社(1973)
【あらすじ】
エルサレムの南に広がっているユダの荒野に、ひとりの預言者が現れます。のちに洗者ヨハネと呼ばれることとなるその人の教えを請うため、ユダの荒野にナザレの町の大工、イエスという青年が訪れます。ヨハネによって洗礼を受けたイエスは、弟子を得て故郷のガリラヤ地方へと帰ったのですが、弟子たちや周囲の人々は、このイエスという人物を誤解していたのです……。
こちらは聖書に描かれている“偉大なイエス”像とはうらはらに、“無力なイエス”、“弱い者のとなりにいるだけのイエス”というイメージを中心に描いた作品です。教養として聖書を読んでみたいけど、いきなり読むのは難しそう……という方は、こういう小説から入ってみてはいかがでしょうか?
おすすめポイント
この作品は、一風変わった聖書解釈に触れてみたい、という方におすすめです。
遠藤周作は、「イエスは無力で、失敗した存在だった」と語っています。イスラエルをローマから解放する英雄になるはずだという誤解を受けたり、ついには裏切られ弟子たちから見捨てられたり、決して成功した人生ではなかったということのようです。
しかし、そんなイエスが、魅力的で美しいものには一切目もくれず、嫌われていた娼婦や病気に苦しむ人々のところにばかり出向いて慰めてあげた、というところが「非常に感動的なんだ」と言います。
この作品は、そういうイエスを“同伴者イエス”と呼んだ遠藤周作による、まったく新しいイエス像が描かれています。
これまで書かれてきた数多くのイエスの伝承や聖書などを参考にしていて、内容も小説ではなく評伝というジャンルです。小説を読み慣れている人にとっては戸惑う書き方かもしれませんが、かなり詳細に調査したうえで書いているようですので、新しい発見ができるかもしれませんよ。
読書時間目安:4時間半~5時間半程度(272ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「国際ダグ・ハマーショルド賞」って?
第2代国連事務総長のダグ・ハマーショルドにちなんで作られた賞です。文学や平和活動などに貢献した人物に贈られます。
『イエスの生涯』は、1978年で受賞しました。これと似た評伝に、『キリストの誕生』という作品があります。
第35回毎日芸術賞受賞『深い河』 遠藤周作/講談社(1993)
【あらすじ】
がんで妻を亡くした磯辺。磯辺の妻を介護したボランティアの美津子。九官鳥を保護区へ放すことを目的とした沼田。戦友たちや敵兵たちを弔いたい木口。クリスチャンの大津。それぞれがそれぞれの理由で、インドへのツアーに参加し、人生を見つめます。
最後に、遠藤周作が生涯のテーマとした“日本人とキリスト教”を存分に見ることができる作品をご紹介します。遠藤周作の作家人生最終章と言える時期に執筆されたこの作品は、5人の人物をとおして、人生というものを見つめることができますよ。
おすすめポイント
この作品は、人生という壮大なテーマに挑戦してみたい、という方におすすめです。
人生というとかなりスケールが大きく感じられるかもしれませんが、それぞれの登場人物がそれぞれの生活を送っていくなかで直面した出来事をとおして、「自分の人生はこれでいいんだ」と受容できるようになるまでを描いた作品だと思います。
全13章、約400ページと、小説を読み慣れていない人にとっては、全体を掴めるようになるまでやや大変な長さを持っているかもしれません。
登場人物が5人いて、それぞれに世代も考えも異なりますので、もしかしたら「この人は自分と近い感性を持っているかも」と思えるようなキャラクターもいるかも。もしそういう人を見つけたら、その人に注目して読んでみてください。
全体を把握するより、「感情移入できそうなキャラクターがどんな考え方をし、どんな歩みをするのか?」ということに注目することも、小説の読み方のひとつだと思います。
とくに、小説を読み慣れていなくて……という人は、自分に近そうな人物にフォーカスして読んでみるとかなり読みやすくなるはずです。
人生という大きなテーマを自分なりに捉えるには、こういう小説の助けを借りるのもひとつだと思います。この作品には、遠藤周作がその人生のなかで考えに考えた「人生の捉え方」というものが現れていると思いますので、もしかしたら何らかのヒントが得られるかもしれませんよ。
読書時間目安:7時間~8時間程度(400ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「毎日芸術賞」って?
演劇や演芸、美術、文学、音楽などのうち、優れた作品を表彰する賞です。特別協賛はユニクロで、現在は若手芸術家に贈られるユニクロ賞もともにおこなわれています。
『深い河』は、1994年の第35回で受賞しました。1995年に映画化もされており、この映画は三船敏郎の最後の出演作となりました。
遠藤周作の没後30年となる今年、遠藤作品を楽しんで!
今回は、遠藤周作の作品を5つピックアップしました(ちょっと熱が入って長くなってしまいました)。小説だけでなく評伝も含まれていますので、「小説は読み慣れていないけど評伝なら読めるかも……」という方も、ぜひ挑戦してみてください。
今月は遠藤周作の誕生月。そして、今年9月には没後30年を迎えます。記念の年を迎える遠藤周作は、これからも注目されていく作家だと思いますので、ぜひこの機会に触れてみてください。
新たな発見を、文学で。ぜひ楽しんでくださいね!







