読書をこよなく愛する筆者utoが、自分時間の充実した読書体験をご提案。今回は、通勤中や行楽シーズンの移動時間などのお供にぴったりな、短編小説を5つ厳選してご紹介します。短編は、「長編小説はまだ集中しながら読む自信がないかも……」という方にもおすすめなので、ぜひ挑戦してみてくださいね。

移動時間にも、おうちでのひとり時間にも! 短編小説5選

11月になりました。過ごしやすい日もあれば、寒さを感じる日もあって、季節の変わり目を感じますね。

この季節になると、ちょっと脚を伸ばして紅葉を見に小旅行……という方もいれば、季候が良くなってきたからこそ頑張ってお仕事! という方もいらっしゃるかもしれません。

そんな時期の移動時間のお供におすすめしたいのが、短編小説です。

短編は短い時間で1話ずつ読み進めていくことができるため、まだ集中して長編を読む自信がないという方にもおすすめですよ。

ぜひこの機会に、短編小説をチェックしてみてくださいね。

第37回山本周五郎賞受賞『地雷グリコ』 青崎有吾/KADOKAWA(2023)

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【あらすじ】
女子高生の射守矢真兎(いもりや・まと)は、勝負事になるとめっぽう強い女の子。その一方で平穏を望む彼女でしたが、次々に一風変わったゲームに巻き込まれていきます。階段を上るときに罠の位置を読み合ったり(「地雷グリコ」)、百人一首を用いた神経衰弱に挑戦したり(「坊主衰弱」)……。次々に勝ち進む彼女に待ち受けているものは、一体何なのでしょうか?

頭脳戦が楽しい、人の死なないミステリーです。短編小説のなかでも、ミステリーはかなり娯楽小説としておすすめのジャンルですので、この機会に挑戦してみてはいかがでしょうか? 主人公を待ち受ける結末を、ぜひ目撃してみてくださいね!

おすすめポイント

この作品は、天才が出てくる爽快な物語が読みたい、という方におすすめです。

主人公がやたらと強い小説は読んでいると爽快感がありますが、これもそういうタイプの小説と言っていいかもしれません。勝負事にはめっぽう強い女の子がどんどん勝負に勝っていくというのは、読んでいて気持ちいいはず!

この作品はどちらかと言えば、心理戦・頭脳戦という感じですが、かなり白熱したバトルが見られますので、熱いバトルものが好きな方も夢中になれると思います。

会話文と地の文のバランスが良く、会話文が多くないと読んでいると苦痛……という方でも読み進められるかも。全体として難しい表現もあまりないので、小説独特の語彙を読み解く自信がないよ、という方にもおすすめです。

とにかくおもしろい小説を読みたい! という方は、こちらはとても楽しく読めると思いますよ。

読書時間目安:6時間~7時間半程度(352ページ)
※ページ数は、単行本でのページ数です。

「山本周五郎賞」って?
山本周五郎賞は、昭和の時代に活躍し名を残した山本周五郎の名を冠した文学賞です。優れた物語性を持つ作品に贈られます。

『地雷グリコ』は、2024年の第37回で受賞しました。山本周五郎賞のほか、第77回日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉、第24回本格ミステリ大賞【小説部門】、第7回飯田賞などを多数受賞しています。コミカライズもされています。

第43回日本SF大賞受賞『残月記』 小田雅久仁/双葉社(2024)

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【あらすじ】
一党独裁政権が支配している近未来の日本。そこでは、「月昂」という感染症が広がっていました。その病の感染者である冬芽は、歪んだ独裁者によって命をかけた戦いに身を投じることに……(「残月記」)。月をモチーフにした、3つの短編集。

こちらは打って変わって、少し? かなり!? こわ~いかもしれない短編集。月をテーマにした3つのお話が入っている短編集ですが、一般的にはロマンチックなイメージのある月も、視点を変えるとこんなイメージも持ち合わせているのかも……と思えてしまいます。

おすすめポイント

この作品は、不思議でちょっと怖いお話を読んでみたい、という方におすすめです。

月に魅せられたり、枕の下に石を置いて眠ったり、独裁政権下で病に冒された人間が戦ったり……。設定も一風変わっています。そしてそこかしこに漂う、読んでいるときのなんとも言えない心地悪さ。この感じは、読んでぜひ体験してみてください。

しかしその一方で、狂気すら幻想的と思えるくらい、全体の空気感が静かです。暴力的な場面もあるのに、読んでいる最中はそういう部分がちょっと不思議な感じがしました。

段落が長めなので、小説を読み慣れていないという人にとっては、ちょっとした挑戦になるかもしれません。ですが、独特の世界観を持つ作品にいつも惹かれてしまうんだ、という方にとっては、夢中になれる作品かもと思います。

読書時間目安:8時間半~10時間程度(496ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「日本SF大賞」って?
1980年に日本SF作家クラブが創設し、今も主催している文学賞です。年に1回、1年間(9月1日から翌8月31日まで)で発表された作品から最終候補作を選んだのち、選考委員による討議で受賞作品が選ばれます。

『残月記』は、2023年の第43回で受賞しました。日本SF大賞のほか、2022年には第43回吉川英治文学新人賞も受賞しています。

第172回直木賞受賞『藍を継ぐ海』 伊与原新/新潮社(2024)

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【あらすじ】
地質調査をしている歩美は、日本海にある見島へ向かうフェリーの中で、どこか不思議な男性と出会います。彼と見島で再会した歩美は、その男性が見島土という土を探していることを知ります。どうやら、「萩焼」という伝統的な焼き物に使う土のようなのですが……?(「夢化けの島」)土地に根付く文化や伝統を描いた5つの短編集。

作家が科学の道を歩んできた科学者であることは、昨今多く見られるようになってきたような気がしますが、本作の作者もそのうちのひとり。この短編集も科学×土地の文化×伝統工芸という、一見変わった組み合わせに見える設定ですが、読後は科学がもっと温かみのあるものに感じられるかも。

おすすめポイント

この作品は、科学を扱った温かみのある小説を読みたい、という方におすすめです。

この作家さんの名前は、『宙わたる教室』などのほかの作品でも目にしたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。『宙わたる教室』は、ドラマになったり読書感想文の課題図書になったりと話題になりましたが、こちらの『藍を継ぐ海』も大変話題になりました。

この短編集は、科学的な視点を持ちながらも、土地の文化や伝統なども取り扱っていて、そこに根付く人々の生活やつながりも描かれています。

5つのお話がどれも最後には温かな、そして前を向く結末となっているので、本を読んで前向きになりたいなど、励ましがほしいときにもいいかもしれません。

段落もほどよく短く、会話文が入るタイミングも多いですので、小説初心者さんにも読みやすいでしょう。ただし、見慣れない方言が出てくる箇所があり、はじめは慣れない感じがするかもしれません。しかしそれも、読み進めるうちに温かな味わいと感じられるようになるでしょう。

読書時間目安:4時間半~5時間半程度(272ページ)
※ページ数は、単行本でのページ数です。

「直木賞」って?
直木賞は、大衆性を押さえた長編小説または短編小説集に与えられる文学賞です。大正時代から昭和時代にかけて名をはせた人気作家直木三十五が名前の由来。上半期と下半期の年2回あります。

『藍を継ぐ海』は、2024年下半期の第172回で受賞しました。著者の伊与原新のほかの作品には、『宙わたる教室』『月まで三キロ』『お台場アイランドベイビー』など話題作多数。

第1回「みんなのつぶやき文学賞」国内編・第1位受賞『百年と一日』 柴崎友香/筑摩書房(2020)

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【あらすじ】
とある地下街には、待ち合わせ場所になっている噴水広場がありました。その噴水広場で高校生の和美が友だちを待っていると、知らない女性が声をかけてきて……(「地下街にはたいてい噴水が数多くあり、その地下の噴水広場は待ち合わせ場所で、何十年前も、数年後も、誰かが誰かを待っていた」)。33の小さなお話が入った短編集。

こちらはショートショート(小説のなかでもかなり短く、短編よりも短いお話のこと)ほどに短いお話が33話も入っている短編集です。そのお話ひとつひとつのタイトルが、まるで詩のように長いですが、それがこの小説の個性ともなっていると思います。

おすすめポイント

この作品は、小さなお話から小説を読むことを始めてみたい、という方におすすめです。

短編より短いお話となるとショートショートがまず思い浮かびますが、ショートショートの特徴のひとつとして、「奇抜な発想の物語」というものがあると思います。そのため、小説に慣れていないと、「これは一体何だったの?」という感想を抱いてしまうことも稀にあるかもしれません。

その点、こちらの短編集は、不思議なお話もありますが奇抜とまではいかないので、小説にもショートショートにも不慣れという方にもおすすめです。

それぞれのお話はつながっておらず、場所も時間も、登場人物もバラバラです。場所の名前や時代、人物の氏名すら書かれていない話があったりもしますが、それでもそれぞれのお話からは、豊かな物語を感じることができるので、初めて小説に触れるという方も気楽に読み始められると思います。

文章の書き方は、平易な言葉遣いですが、ややかたい印象があります。感情を極力抑えたような文体なので、柔らかな文章に慣れている人は最初は戸惑うかもしれません。ですが、すぐに慣れると思いますので、ぜひ挑戦してみてください。

読書時間目安:4時間~4時間半程度(240ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「みんなのつぶやき文学賞」って?
ジャンル不問で、誰でも投票ができる文学賞です。活動は、ボランティアチームや一部有志によって支えられており、Twitter文学賞の志を継いだ、小説好きによる文学賞となっています。

『百年と一日』は、2020年の第1回で受賞しました。文庫化された折に1編追加され、文庫版では34編の短編が収録されています。

第19回本屋大賞第2位受賞『赤と青とエスキース』 青山美智子/PHP研究所(2021)

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【あらすじ】
レイは、メルボルンに留学している女子大生。そんな彼女はある日、日系人のブーと恋をして、「期間限定の恋人」という形でお付き合いを始めますが……(「一章 金魚とカワセミ」)。メルボルンの画家が描いた1枚の「絵画(エスキース)」が繋ぐ、連作短編集。

最後に、ひとつひとつの短編がひとつの大きな物語を描き出す連作短編形式の作品をご紹介します。こちらは、プロローグとエピローグの間に4つのお話が語られるもので、短編を読み始めたいけど、長編にもそろそろ挑戦してみたいという方にもおすすめの作品となっていますよ。

おすすめポイント

この作品は、愛の物語を読んで心温まりたい、という方におすすめです。

アート作品を扱っている作品と言えばほかにもたくさんありますが、こちらは1枚の絵をめぐって5つの愛の物語が展開されていく、どちらかと言えばアート主体ではなく人間主体の物語。

アートは敷居が高くてなかなか触れていくことができない……という方も、人間ドラマと一緒にアートに触れるなら、もう少しハードルも下がるのではないでしょうか?

著者の代表作は、1月のブックガイドでもご紹介した『木曜日にはココアを』など心温まる作品が多いですが、本作もまさに心を温めてほしいときにぴったりだと思います。

短編が連なってひとつの物語を形作る性質上、一度目ではわからなかった伏線や仕掛けがあるので、二度読みするともっと味わい深く楽しむことができますよ。

文章は全体的に漢字控えめ。文体も柔らかく、どちらかと言えばしゃべり言葉に近い印象を受けるかもしれません。小説は初挑戦! という方にもおすすめの文章だと思いますよ。

読書時間目安:4時間~4時間半程度(240ページ)
※ページ数は、単行本でのページ数です。

「本屋大賞」って?
本屋大賞は2004年に設立された文学賞です。この文学賞は、書店員さんたちの投票で決まるという特徴があります。

『赤と青とエスキース』は、2022年の第19回で受賞しました。著者の代表作は、『木曜日にはココアを』『月の立つ林で』『人魚が逃げた』など多数。

小さなお話がぎゅぎゅっと詰まった短編集を楽しんで!

今回は、移動時間にも、また小説入門にもおすすめの、短編集を5つ厳選してご紹介しました。

「しっかり時間を取って読書! ……をしたい気持ちはあるんだけど、なかなか……」という方も、移動時間のついでや、カフェやレストランでの隙間時間でプチ読書をしてみるなら、もしかしたら読書入門が叶うかもしれません。

今回は比較的最近に出版された国内作品をチョイスしましたが、これ以外にも素敵な短編集はたくさんあります。

ぜひ、ひとり時間の読書を充実したものにしてみてくださいね。

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