ハロウィンシーズン! 魔女や吸血鬼などが登場する小説5選
10月になりました。いよいよ涼しい日も増えてきて、過ごしやすい気候になってきましたね。
この季節、大注目のイベントと言えば、ハロウィンではないでしょうか? ハロウィンは子どもたちだけでなく、大人も楽しいイベントです。
そんなハロウィンシーズンを文学でも楽しんでみるのはいかがでしょう?
【ブックガイド】では、おもに文学賞の受賞作品から本をピックアップしていますが、今回は、番外編。文学賞を離れて、数々の名作のなかでもハロウィンらしい存在が登場する作品を厳選しました!
もともと文学賞はノーベル文学賞が一番古く、1901年から始まっていますが、それ以前の作品となると文学賞の概念があまりなかったため、ご紹介する機会がありませんでした。しかし、昔の作品でも珠玉の名作はたくさん存在しています。
魔女に吸血鬼、ゴーストなど……。まさにこの季節を代表する存在に、ぜひ思いをはせてみてくださいね!
【魔女】『オズの魔法使い』 ライマン・フランク・ボーム(1900)
【魔女とは?】
超常的な力を使ったり、黒魔術を使ったりするなど、不思議な力を持っているとされています。魔法を使う人間のなかでも、悪いものというイメージが強いようです。英語“Witch”では男性を示すこともあります。都市伝説では、魔女の集会を開くこともあるとか……?
【あらすじ】
アメリカのカンザス州で暮らしている女の子、ドロシー。ある日、愛犬のトトとともに家ごと竜巻に巻き込まれ、不思議な国・オズ王国へと飛ばされてしまいます。ドロシーとトトを乗せた家はマンチキンという人々の国へ降り立ちましたが、その際に東の悪い魔女をやっつけてしまい……!?
おすすめポイント
この作品は、楽しいファンタジーを読みたい、という方におすすめです。
言わずと知れた児童文学の名作です。ドロシーという女の子が、カカシやブリキの木こり、ライオンなどの仲間と出会いながら、カンザスへ帰る方法を探してオズ王国を旅するというストーリー。
メインのキャラクターたちはみんな願いを持っていて、ドロシーはカンザスへ帰るすべを、カカシは頭脳を、ブリキの木こりは心を、ライオンは勇気をほしがっています。
それを手に入れるためには、強大な魔力を持つオズに頼めばいい、ということのようですが……一筋縄ではいかないのが、この物語のおもしろいところ!
この作品には、良い魔女、悪い魔女、オズという魔法使い、などなど、魔法を使う人物が多く登場してきます。魔女ものと言えば暗い作品をイメージする方もいるかもしれませんが、こういった明るい作品の魔女もいかがでしょうか?
この旅の結末は、ぜひ読んで確かめてみてくださいね!
読書時間目安:4時間半~5時間程度(253ページ)
※ページ数は、新潮文庫版でのページ数です。
【吸血鬼】『夜明けのヴァンパイア』 アン・ライス(1976)
【吸血鬼とは?】
よみがえった死者、または不死の存在のうち、血を飲むことが特徴となっている存在です。民話や伝説に古くから登場しますが、現在の吸血鬼のイメージはヨーロッパからの伝承による要素が強いようです。人間の姿をしていることが多い一方、動物に変身することもあります。
【あらすじ】
18世紀末のこと。青年ルイは弟を亡くし、ひどく傷ついていました。そこに現れたのは、美しく残酷な吸血鬼・レスタト。絶望し、死を望んでいたルイは、レスタトによって同じ吸血鬼へと変えられてしまいます。そこからふたりの共同生活が始まりますが……。
おすすめポイント
この作品は、一風変わった吸血鬼ものが読みたい、でも吸血鬼の王道イメージも楽しみたい! という方におすすめです。
吸血鬼もので言うと、吸血鬼文学の金字塔『吸血鬼ドラキュラ』(ブラム・ストーカー著/1897年)や、それに先駆けて吸血鬼を題材にした『カーミラ』(シェリダン・レ・ファニュ著/1872年頃)などなど、枚挙にいとまがありません。
ですが、筆者個人としては圧倒的にこれが好きなので、おすすめとして取り上げさせていただきました。
農園主だった青年が、残酷で美しい吸血鬼によって同じ存在となり、現代にいたるまでの約200年もの間のことをインタビューされる……という設定の作品です。
吸血鬼にインタビューをおこなうという設定自体も変わっていておもしろいのですが、古典的な吸血鬼のイメージ(血を吸う、日光を嫌う、など)も色濃く反映されていて、吸血鬼ものとしてもじつに楽しいです。
それぞれの登場人物の関係性の複雑さや、心のあり方の変化、苦悩など、心理的な部分も読み応え抜群。200年間のことを語るのでやや長いのですが、映画化もされているので(『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)、アマプラでもレンタルで見られます)、そちらもぜひ!
読書時間目安:9時間半~11時間程度(554ページ)
※ページ数は、ハヤカワ文庫版でのページ数です。
【ゴースト】『ハムレット』 ウィリアム・シェイクスピア(1601?)
【ゴーストとは?】
幽霊や亡霊のこと。東西を問わず、古くから存在する怪異として語り継がれてきました。亡くなった人がこの世に残りさまよっているイメージのもので、西洋においては、宝を守ったり、助言や証言をしたりする存在として描かれることもあります。生きている人や動物に乗り移ることもあるとか……?
【あらすじ】
デンマーク王が急死し、その弟クローディアスが王妃と結ばれ新たな王位に就きました。亡き国王の息子であるハムレットは、父の死と早すぎる母の再婚とで心が沈んでしまいます。そんなときに、「父王の亡霊が出る」という話を耳にしたハムレットは、父親の亡霊と出会い、その死がクローディアスによる奸計だったことを知って復讐を誓いますが……。
おすすめポイント
この作品は、シェイクスピアの4大悲劇に触れてみたい、という方におすすめです。
イングランドで活躍した劇作家・詩人のシェイクスピア。彼の4大悲劇と言えば、『オセロー』『マクベス』『リア王』、そしてこの『ハムレット』です。
筆者が思うシェイクスピアの悲劇の特徴としては、個人の破滅という個人的な悲劇にとどまらず、国の滅亡といった国家規模の悲劇にもおよぶスケールの大きさが挙げられると思います。
とくにこの『ハムレット』で言えば、デンマーク王家のことが描かれていますが、王家の存続は国の存続も同じことと考えると、ハムレットが復讐を遂げて無事に国王の座につけるかどうかというところや、そもそも復讐計画がバレないかというところにもハラハラできると思います。
そして、この作品に出てくるゴーストは、なんとハムレットの父親なのです。自らの死の真相を告げ、息子に復讐を誓わせます。日本でもゴーストや幽霊といえば、この世に未練や恨みがあって現れるイメージがあると思いますので、すんなりと受け入れやすい設定だと思います。
こちらは厳密には小説と言うよりは劇の台本に近いですが、まるで小説のように読んでいけますし、幽霊大好き筆者のなかではトップクラスに良い幽霊ものですので、ぜひ読んでみてくださいね!
作中の悲劇のなかには、絵画で有名なオフィーリアの悲劇も含まれていますので、そちらにも注目ですよ。
読書時間目安:5時間~6時間程度(284ページ)
※ページ数は、新潮文庫版でのページ数です。
【砂男】『砂男』 E.T.A.ホフマン(1817)
【砂男とは?】
ザントマン、サンドマンとも言い、ドイツを中心としたヨーロッパ諸国に伝承が残っている睡魔の一種です。砂袋を背負った老人の姿で描かれることが多く、とくにドイツでは、砂男の名前を出して夜更かしをする子どもを脅かして寝かしつける、という習慣があったようです。
【あらすじ】
ナタナエルは、自分が恐れている“砂男”について、親友のロータールに手紙を書きます。そこには、幼い頃に経験した恐ろしい出来事が綴られていました。しかしその手紙はロータールではなく、彼の妹・クララの元へと届いてしまします。クララは動揺しているナタナエルを励ます手紙を書き送りましたが……。
おすすめポイント
この作品は、幻想小説の名作を読みたい、という方におすすめです。
幻想文学の奇才として名高い、E.T.A.ホフマン。ロマン主義時代に活躍した彼の代表作は、『黄金の壺』、『くるみ割り人形とねずみの王様』、『牡猫ムルの人生観』、そして『砂男』などです。
そんなこの『砂男』は、過去のトラウマにとらわれていた青年が、とある老人や少女との出会いをきっかけに、徐々に正気を失っていく……という筋書きの短編で、科学の発達とこれまでの民族的な精神との間で揺れ動く不安を、非常に良く表しています。
個人的には、フロイトが『砂男』の精神分析をおこなった論文『不気味なもの』が併録されている版がとてもお気に入りなのですが、そちらはさすがに絶版になっていて入手困難なので、現在でも手に入れやすい『砂男/クレスペル顧問官』(光文社古典新訳文庫)がおすすめです。
砂男は日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、ドイツだとかなりポピュラーなようです。砂を目に投げ入れて人を眠らせる、という特徴を持つこの睡魔が、物語にどう関わっていくのか……。ぜひ確かめてみてくださいね。
読書時間目安:4時間~4時間半程度(230ページ)
※ページ数は、光文社古典新訳文庫版でのページ数です。
【怪物】『フランケンシュタイン』 メアリー・シェリー(1818)
【怪物とは?】
モンスターの一種。とくに、『フランケンシュタイン』に登場する怪物のように死者を継ぎ合わせて創り出されたものは、ゾンビのような側面もあるかもしれません。怪物に分類される怪異は幅が広く、魔獣や魔物などもこれに関連するものとして語られることがあります。
【あらすじ】
イギリスの北極探検家は、北極点に向かう途中で衰弱した男性・ヴィクター・フランケンシュタインを発見します。介抱して話を聞いてみると、どうやら誰かを捜しているらしい。そのヴィクターの話を聞くうちに、彼が怪物を創り出し、それによって数々の悲劇が起こっていったことがわかってきて……。
おすすめポイント
この作品は、切実な愛を求める姿に感動したい、という方におすすめです。
タイトルの『フランケンシュタイン』は、主人公である科学者のヴィクター・フランケンシュタインのことで、作中に登場する怪物はただ単に「怪物」とだけ語られます。
この「怪物」は、姿形は醜く恐ろしいものの、優しい性格で、切実に愛を求めている存在なのです。森の中に住む一家を助けることもあり、他者に優しくすることや、それによって愛を得られるかもしれないと期待する姿は、共感できるのではないでしょうか。
彼が求めているのは、ささやかな愛情です。そのために、自分を愛してくれる妻を作ってくれとヴィクターに懇願したり、友情を求めたりもするのですが、ヴィクターがそれにどう反応するのかは読んで確かめてみてください。
『フランケンシュタイン』は、映画版が有名かもしれませんね。筆者もいくつかフランケンシュタインを題材にした映画を観ていますが、原作があまりにも良すぎるため、いまのところどの映画も合いませんでした(笑)
ハロウィンで目にするフランケンシュタインのコスプレは、映画版でのイメージがかなり影響していると思います。原作ではけっこうイメージが違うので、ぜひ読んでみてくださいね!
読書時間目安:7時間半~9時間程度(456ページ)
※ページ数は、新潮文庫版でのページ数です。
ハロウィン気分を、文学でも!
今回は、ハロウィンシーズンにぴったりな、魔女や吸血鬼が登場する作品を5冊厳選してご紹介しました。
どれも名作なのですが、名作ゆえに、じつは読んだことがないということもあるかもしれませんね。
ハロウィンらしいキャラクターが登場する作品は数多くあり、ほかにもゾンビや死神を取り扱ったもの、ハロウィンシーズンそのものにフォーカスした作品など、楽しい作品がそろっています。
魔女が好き? それとも吸血鬼? お好みのキャラクターを選んで、この季節らしい読書を楽しんでみてくださいね!