改めて動物たちのことを考える! 動物小説5選
9月になりました。一雨ごとに涼しくなってきて、8月までのような暑さは感じられなくなってきました。だんだん秋になってきたなという気がしますね。
さて、9月と言えばいろいろと秋の風物詩が数多く登場してきますが、一度季節を離れて、動物たちに思いをはせてみるのはいかがですか?
日本では、毎年9月20日~26日までが、動物愛護週間となっています。そこで今回は、この時期に合わせて動物が登場する小説をご紹介。
動物がメインやテーマとなって登場する作品のことを動物小説や動物文学と呼びますが、これらの作品はかわいいだけではなく、真剣に動物のことを考えさせてくれる作品も多いもの。
この機会に、ぜひ人間と動物との関わりを考えてみてくださいね。
【登場動物:犬】第163回直木賞受賞『少年と犬』 馳星周/文藝春秋(2020)
【あらすじ】
東日本大震災で飼い主を失ったシェパードの多聞は、ある日和正という青年に拾われます。和正も震災で生活が激変してしまい、認知症の母親と彼女を介護する姉とを支えるため、窃盗に手を染めていました。多聞は和正たちに安らぎを与えましたが、しかし……。(「男と犬」)犬の多聞と、出会う人々との交流を描いた6編の短編集。
こちらは、人々と出会いながらとある方角へ旅を続けていくことになる犬の多聞がメインとなって登場している作品です。6つの小さな物語でひとつの大きな物語を作り出す連作短編形式の小説ですので、短編は慣れてきたけれどそろそろ長編も挑戦してみたいという方にもおすすめです。
おすすめポイント
この作品は、そろそろ長編に挑戦してみたい、または、感動できる作品に出会いたい、という方におすすめです。
馳星周(はせ せいしゅう)といえば、ノワール小説、というイメージの方もいらっしゃるかもしれません。
ノワール小説とは、犯罪に関することや、暗い社会問題をテーマとして描いた小説のことで、フィルム・ノワールという映画のジャンルから影響を受けていると言われています。
こういった小説では、主人公となる人物も道徳的に未熟であったり、人格的にも未完成であったりすることが多く、物語全体として重い空気が漂っていることも多いです。
暴力的なコミュニティや腐敗した社会などが舞台となりやすいジャンルですが、この作品は犬の多聞と人間との温かい関わりも描いているので、そういった暗い社会を取り扱った作品が苦手な方でも読みやすいと思います。
文章は装飾があまりなく、比喩も少なめ。小説を読み始めたばかり、という方でも受け入れやすい文体でしょう。すらすら読める小説をお探しの方にもおすすめです。
読書時間目安:6時間半~7時間半程度(384ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「直木賞」って?
直木賞は、大衆性を押さえた長編小説または短編小説集に与えられる文学賞です。大正時代から昭和時代にかけて名をはせた人気作家直木三十五が名前の由来。上半期と下半期の年2回あります。
『少年と犬』は、2020年上半期の第163回で受賞しました。コミカライズもされており、2025年3月には映画も公開されました。
【登場動物:犬】第1回赤い鳥文学賞受賞『マヤの一生』 椋鳩十/大日本図書(1970)
【あらすじ】
わたくしの家に来たばかりのマヤは、片手ほどしかない小さな犬でした。初めて抱いてくれた次男に、一番なついていたマヤ。ニワトリのピピ、ネコのペルとも一緒になって仲良く暮らしていましたが、戦争が激しくなってきたとき、国からマヤを殺せと通達が……。
児童文学ではありますが、大人が読んでも胸がぎゅっと締め付けられる作品です。とくに犬をはじめとした動物が好きな方だとつらい作品かもしれません。ですが、目をそらしてはいけない現実が描かれていることも確かだと思います。
おすすめポイント
この作品は、短い本を読みたい、または、心に残るような作品を読みたい、という方におすすめです。
椋鳩十(むく はとじゅう)は、日本を代表する児童文学者のひとりであり、動物文学のジャンルにおける代表的な作家のひとりでもあります。
椋鳩十の名前は、もしかしたら『大造じいさんとガン』などの作品で見たことがあるかもしれません。また、本名の久保田彦穂という名前で校歌などの作詞をおこなっていたので、母校の校歌が彼の作品だった、なんていう方もいらっしゃるかもしれませんね。
このように、子どものための作品を数多く残した椋鳩十ですが、『マヤの一生』も児童文学として書かれた作品です。
しかし、その内容は、大人が読んでも涙がこらえられなくなるくらいの真剣なもの。これを読んだら、一生心に残って離れなくなるかもしれません。
文体としては、最初はなかなかリズムに乗っていくのが難しい文章かもしれません。読点(、)が多いので、文章が切れ切れに感じられるかもしれませんが、じっくり丁寧に読みたい人にはぴったりだと思います。
読書時間目安:1時間半~2時間程度(97ページ)
※ページ数は、単行本でのページ数です。
「赤い鳥文学賞」って?
児童文学に贈られる賞です。赤い鳥の会が主催し、佐藤さとるなどの人気作家も受賞しています。2010年の第40回まで続きました。
『マヤの一生』は、1971年の第1回で受賞しました。動物文学のジャンルにおける名作として高い評価を受けています。
【登場動物:猫】第3回TBS・講談社ドラマ原作大賞受賞『猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』 大山淳子/講談社(2012)
【あらすじ】
この弁護士は、奇跡を起こす!? お見合いは30連敗、外見もさえない……。でも、天才! 婚活を頑張る弁護士の百瀬太郎は、猫がいっぱいの事務所で、今日も人と猫の幸せを考え中。そんな百瀬に、毎日やっかいな難題が舞い込みます。笑いも涙も楽しめる、ハートフル・ミステリー。
こちらは打って変わってハートフルな作品です。ミステリーではありますが、ほっこり感がたまりません。ミステリーに挑戦してみたいけど、あんまり重たい作品はちょっとな……という方は、こんなほっこりミステリーはいかがでしょうか?
おすすめポイント
この作品は、本を読んでほっとしたい、という方におすすめです。
こちらの作品の魅力は、なんと言っても主人公の百瀬。不憫で仕方がないトラブルに見舞われることが多いのですが、それを全て持ち前の頭脳と優しさで乗り越えていくのは、ある意味強さの証しのようにも思えます。
ほかの登場人物の性格も重たくなく、読んでいて楽しい作品だと思います。人が死なないミステリーですので、人の死を扱ったミステリーは苦手、という方でも楽しめるでしょう。
ひとつひとつの謎がつながって、最後は……! という連作短編形式なので、短編は慣れてきたけど、長編はまだ勇気が出ないという方にもおすすめ。
会話文と地の文とのかみ合いのバランスが良く、テンポ良く読んでいけます。まるでその場にいるかのような臨場感を味わいたいならぴったりでしょう。
ちょっとクスッとなる、でも感動もできる、猫もかわいい! というこちらの作品、読書でほっこりしたいならおすすめですよ。
読書時間目安:6時間半~7時間半程度(384ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「TBS・講談社ドラマ原作大賞」って?
TBSと講談社が共同で主催する公募文学賞です。受賞作は書籍化され、また、TBSによってテレビドラマとラジオドラマが制作されます。
『猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』は、2011年の第3回で受賞しました。書籍化と同時にテレビドラマも制作。シリーズとしては、5作目の『猫弁と魔女裁判』で一度完結しましたが、第2シーズンとして『猫弁と星の王子』~『猫弁と奇跡の子』の全5巻が刊行されています。
【登場動物:鳥】第21回路傍の石文学賞受賞『ぼくの小鳥ちゃん』 江國香織/あかね書房(1997)
【あらすじ】
雪の日の朝にぼくの部屋に舞い込んできた、小さな小鳥。10センチくらいの大きさで、白いからだに、ピンクのくちばしと脚を持っている。「あたしはひよわな小鳥とは違うのよ」とはっきり宣言し、大好物はこれだと言って譲らない。だけどぼくの彼女のことをちょこっと意識しているところもあって……。ぼくと小鳥と彼女との、少し切なく幸せな、冬の物語。
こちらは小鳥が登場するお話です。動物と言えば、ペットとしても犬や猫が定番かもしれませんが、鳥も人気の動物のひとつ。愛らしい姿に表情豊かな動作。それに加えて、このお話では人間の言葉をしゃべります。小鳥がしゃべったらこんな感じかも? と思える作品ですよ。
おすすめポイント
この作品は、幸せな読書時間を過ごしたい、という方におすすめです。
ちょっぴり切ない物語なのですが、ぼくと小鳥と彼女が生活している様子は温かく描写されていて、それだけで幸せな気持ちになれます。
何より小鳥ちゃんがとってもキュート。表情豊かに自分の感情を表現しながら、時々ぼくの彼女に嫉妬している様子は本当にかわいらしい!
作品の雰囲気から言えば、冬の日に暖かな室内で読むのが正解な気もしますが、幸せな読書をしたいと思ったらこの作品は季節問わずおすすめです。
文章はひらがな多め。難しい表現もなく、まるで大人のために書いた児童文学のような空気感があります。きつい言葉遣いもほとんどないので、お疲れのときや、読書で癒やされたいときにもぴったりかもしれません。
ページ数もかなり控えめなので、気軽に読書してみたいという方にもおすすめですよ。
読書時間目安:2時間半~3時間程度(136ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「路傍の石文学賞」って?
『路傍の石』の著者、山本有三を讃えて石川文化事業財団が設立しました。さまざまなジャンルの作品に与えられます。2001年の第23回以来休止中ですが、新たな事業展開を模索しているそうです。
『ぼくの小鳥ちゃん』は、1999年の第21回で受賞しました。 温かな雰囲気と読みやすい文体を持ち、子どもでも読める小説としても評価が高いです。
【登場動物:ウサギ】1973年カーネギー賞とガーディアン賞W受賞『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』 リチャード・アダムス/レックス・コリンズ社(1972)
【あらすじ】
弱々しいけれど、予知能力のあるウサギ、ファイバー。ある日兄であるヘイズルは、ファイバーからこれから起こる未来を聞いて、繁殖地の長に避難することを提案します。しかし聞く耳を持ってもらえず、数匹のウサギだけをともなって、繁殖地を脱出することにしましたが……。
最後にウサギたちの壮大な物語をご紹介します。ウサギはウサギでも、こちらに登場するのは野ウサギです。処女作でありながら、カーネギー賞とガーディアン賞をダブル受賞したこちらの作品は、ファンタジー好きも楽しめる名作ですよ!
おすすめポイント
この作品は、多少長くてもいいから名作に挑戦してみたい、という方におすすめです。
著者のリチャード・アダムスがこの物語を作ったのは、自転車旅行の間、子どもたちから長い物語を話してとせがまれたのがきっかけ。
旅のさなかに作られた物語らしく、作中のウサギたちも壮大な旅をします。理想郷を求めて各地をめぐりますが、たくさんの困難にも遭遇します。
そんなウサギたちが持つ独特の文化はとてもおもしろいです。ウサギたちの間で使われている「ウサギ語」なるものがあり、「インレ」が「月」、「フリス」が「太陽」、また「走るのをやめる」=死ぬことを意味するなど、独特の言語と言い回しがあり興味深いです。
ウサギたちは独自の神話も持っており、高度な文化があることがわかります。こういう細かな設定がある作品が好きなら、夢中になってしまうかも!
それに加えてイギリスのファンタジーがお好きということなら、きっと楽しめると思いますよ!
上下巻ともにややページ数があり長めですが、じっくり読書を楽しみたいというときには、こんな作品もいかがでしょうか?
読書時間目安:上巻7時間半~9時間程度・下巻6時間半~8時間程度。合計14時間~17時間程度(上巻442ページ・下巻382ページ。合計824ページ)
※ページ数は、単行本でのページ数です。
「カーネギー賞」って?
イギリスの図書館協会によって贈られる児童文学の文学賞です。2023年には「カーネギー作家賞」に名称が変更されました。フィクションだけではなく、伝記なども受賞の対象となります。
「ガーディアン賞」って?
イギリスまたは英語圏の作家が書いた作品のうち、イギリス国内で公表された児童文学が対象の文学賞です。フィクションのみが対象。2016年をもって終了となりました。
『ウォーターシップダウンのウサギたち』は、1973年に受賞しました。2006年には新訳版が発行されています。1978年にアニメ映画化、1998年にテレビアニメ化。日本でも放送されました。また、現在Netflixでも全4話のミニシリーズが配信されています。
動物たちの魅力が詰まった物語をぜひ楽しんで
今回は、動物が登場する小説を5つご紹介しました。
お好きな動物から読んでみるのも良し、苦手な動物から読んでみてその魅力に気づいてみるのも良し。楽しみ方はたくさんありますよ。
これをきっかけにして、動物たちのことを考えるのもいいですね。お部屋で、図書館で、公園のベンチで。お好きな場所で、ゆっくりとひとり読書。ぜひ楽しんでくださいね。