読書をこよなく愛する筆者utoが、自分時間の充実した読書体験をご提案。今回は、カフェのモーニングと一緒に楽しみたくなる、「おいしい読書」ができる小説を5つご紹介します。作中の料理を食べたくなるだけでなく、どれも心温まる作品ばかりなので、朝の穏やかなひとり時間にぴったりですよ。ぜひ、本でも現実でもグルメをお楽しみください。

朝活読書でおいしい体験! おすすめのグルメ小説5選

3月ですね。先日は雪が降りましたが、関東でも少しずつ雨が多くなり、季節の移り変わりを感じられるようになってきました。

だんだんと暖かくなってくると、少し食欲も増してくるのは筆者だけでしょうか? そんな食欲の春(!?)には、朝からモーニングでおいしい朝ご飯を……なんていうのも良いかもしれません。

その朝時間に、おいしい食べ物が出てくる小説をお供にするのはいかがでしょう。

食べ物が出てくる小説は、「グルメ小説」や「飯テロ小説」などと呼びますが、きっとどれを読んでも「おいしい読書」が体験できますよ。

2006年バンカレッラ賞料理部門賞受賞『食堂かたつむり』 小川糸・ポプラ社(2008)

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【あらすじ】
倫子はある日突然恋人にすべてを持ち逃げされてしまい、そのショックで声が出なくなってしまいました。夜行バスで山間の故郷に戻った倫子は、そこでとても小さな食堂を始めます。「食堂かたつむり」と名付けたその食堂は、完全予約制で一日一組だけをおもてなし。決まったメニューはないのですが、やがてその食堂は徐々に評判になっていき……。

家電から食器、カーテンや、祖母との思い出の梅干しなど、一切合切を持ち逃げされた空っぽの家に帰って来るという、かなりショッキングな出だしです。残ったのは祖母の形見のぬか床だけ……。絶望的な状況ですが、そこから始まるのは命や人々と向き合う心温まる物語です。

おすすめポイント

この作品は、悲しみから立ち直る姿を応援したい、または、食を通して命の尊さを感じたい、という方におすすめです。

「食堂かたつむり」に訪れる人々も、悲しみや問題を抱えていたりしますが、倫子が抱えている悲しみや苦しみも、きっと共感できる人がいるはず。

自分が体験したことでなくとも、共感し、気持ちを想像できるということが、読書の醍醐味ではないでしょうか。

食事というものは「いのちをいただく」という行為でもあります。そのことにも真正面から向き合った作品となっているので、人と人に命をくれる存在、その関係についても考えることができるかもしれません。

全体として読みやすく、小説は初めてという方でもすんなりと受け入れられる文体だと思います。段落や改行も読みやすい間隔でとられているので、小説は初挑戦という方でも読み切ることができるでしょう。

読書時間目安:4時間半~5時間半程度(290ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「バンカレッラ賞」って?
イタリアの文学賞で、本の街ポントレーモリで毎年発表されています。本屋さんの投票によって決まるので日本の「本屋大賞」に似た賞といえるでしょう。1952年に創設されたときの受賞作第一号はヘミングウェイ『老人と海』。料理部門賞は2006年に創設されました。

『食堂かたつむり』は、2011年に料理部門賞を受賞しました。2010年には映画化もされています。

第2回宮崎本大賞受賞『本日のメニューは。』 行成薫・集英社(2019)

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【あらすじ】
母親の料理がまずいことに悩む女子高生と、おむすび屋店主との物語(「おむすび狂詩曲」)、際限なく食べてしまう男性の葛藤と、大盛りの定食を作り続ける頑固親父の秘密の過去(「闘え! マンプク食堂」)などなど。町のさまざまな料理屋さんで繰り広げられるおいしい料理と人間模様。全5編収録の短編集です。

人々の設定はちょっとコミカルですが、「なるほど、あり得そうな状況……」と思わせるリアリティもあります。なんと言ってもお料理がとてもおいしそうです。これを読んでおなかがすいたら、町のご飯屋さんに食事に出かけたくなります。

おすすめポイント

この作品は、泣ける人情ものを読んでみたい、という方におすすめです。

料理を通した人々の心の交流がとても温かく、この作品の世界に浸っていると、なんだか優しくなれそうな気がします。

人情ものというと最近はあまり聞きなじみがなくなっているような気がしますが、こういう心のつながり方もありだよね、と思わせてくれると思います。

セリフは多いですが、地の文は段落が多くとられているので、ぱっと見た感じでは文章が長いと感じてしまうかもしれません。ですが読み始めてみると、地の文のなかに難解な表現がないので、すらすら読んでいけるほど読みやすいです。

読書時間目安:4時間半~5時間程度(272ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「宮崎本大賞」って?
宮崎県独自の賞で、県民におすすめしたい本を投票で決定します。書店員や図書館司書の皆さんが企画し2020年から始まりました。

『本日のメニューは。』は、2021年の第2回で受賞しました。温かい物語が好評を博し、続編を望む声も。

第26回吉川英治文学新人賞受賞『幸福な食卓』 瀬尾まいこ・講談社(2004)

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【あらすじ】
父を辞めると言い出した父親、料理を届けに来てくれるけれど家出中の母親、元天才児の兄は突然農業を始める……。ちょっと変な佐和子の家族。やがて佐和子は塾で大浦君と出会いました。大浦君はびっくりするほど単純だけれど、佐和子にとって大きな存在になっていきます。

いつも家族のみんなが決心を口にするのは、家族がそろっている朝食時。だから朝から衝撃を受けて一日が始まる佐和子ですが、ある日の父親からの宣言は「父を辞める」という驚くべきもの。この家族がどのように再生していくのか、ぜひ読んでみてくださいね。

おすすめポイント

この作品は、家族の再生の物語を読んで心から温まりたい、という方におすすめです。

普通だったら受け入れるのが難しい関係の変化でも、すんなりと受け入れている佐和子の家族ですが、それぞれに抱えているものが見えくるとこの物語も見え方が変わってくるでしょう。

作中で「意外な組み合わせ」でできるおいしさについて言及していますが、まさにこの物語はそういう要素がたくさん盛り込まれていると思います。

意外な組み合わせで言えば、筆者が衝撃を受けたのは「生クリーム蕎麦」です……。お、おいしいのでしょうか……ちょっと試してみたくなりますが……。

全体として段落は短め。文体も読みやすくできているので、すいすい読み進められる作品を探している人にもおすすめです。

読書時間目安:4時間半~5時間半程度(288ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「吉川英治文学新人賞」って?
公益財団法人吉川英治国民文化振興会が主催、講談社後援の文学賞です。新聞や雑誌、単行本といった媒体に発表された、優秀な小説を書いた新人作家の中から受賞者が選ばれます。1980年創設。

『幸福な食卓』は、2005年の第26回で受賞しました。2006年にはコミック版が出版され、2007年には映画化されています。

第2回静岡書店大賞映像化したい文庫部門受賞『和菓子のアン』 坂木司・光文社(2010)

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【あらすじ】
漠然と高校生活を過ごしたまま卒業し、無職となってしまった梅本杏子(通称アンちゃん)。しかしデパ地下の和菓子屋で「なんとなく」始めたアルバイトでは、個性的な同僚に囲まれる日々! 徐々に和菓子の魅力に目覚めていくアンを取り巻く、おいしい日常系ミステリー。

ここからは和のスイーツを取り上げた小説をご紹介します。和菓子はあまりなじみがないという方でも、もしかしたらその魅力のとりこになってしまうかも!? こちらは和菓子×日常系ミステリーという一風変わった組み合わせですが、これを読んだらきっと和菓子を食べたくなりますよ。

おすすめポイント

この作品は、主人公の成長を楽しみたい、または、のんびりとミステリーを楽しみたい、という方におすすめです。

日常系ミステリーは、基本的に命こそ失われないものの、その謎は想像以上に奥深いです。

筆者は日常系ミステリーの醍醐味は、犯人捜しではなく謎が解けたときの「ほっ」や「ああ!」といった安心感やすっきり感だと思っているのですが、こちらの作品でもそれを存分に楽しむことができます。
※もちろんモヤモヤする日常系ミステリーもあります。イヤミス(いやな気持ちになるミステリー)の一種ですが、そういう作品も楽しいですよ。

この作品で楽しめるのは、主人公の成長と謎とおいしい和菓子。和菓子はあまり食べないという方も、和菓子に対するイメージが変わるかもしれませんよ。

地の文も話し言葉に近く、堅苦しくない文体です。主人公のアンちゃんの性格を反映したような表現の数々は、きっと親近感を覚えるはず。軽い読み口の作品をお探しなら、ぜひ読んでみてくださいね。

読書時間目安:6時間半~7時間半程度(408ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「静岡書店大賞」って?
静岡県内の有志の書店員で構成された、静岡書店大賞実行委員会が主催する文学賞です。書店員や図書館員が、静岡県民に最も読んでほしいと思う本を選出します。

『和菓子のアン』は、2013年の第2回で「映像化したい文庫部門」を受賞しました。コミカライズや、文庫版が2013年度大学読書人大賞にノミネートされるなどしました。現在シリーズとして全3冊が刊行されています。

第36回吉川英治文学新人賞受賞『まるまるの毬』 西條奈加・講談社(2014)

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【あらすじ】
「南星屋」という和菓子屋は、武士を辞めた治兵衛、出戻りのお永、看板娘のお君が切り盛りする繁盛店。お菓子はどれも売り切れご免。売る菓子は決まっておらず、その日にどんな菓子と出会えるのかは運次第。お客さんの多くは、江戸ではめったに味わえないお菓子を楽しみにしてやってきますが、しかしこのお店には、ある秘密があって……。

こちらのスイーツ小説(スイーツを題材にした小説)は、江戸の麹町を舞台にした時代小説です。これまで紹介した4作品はどれも現代が舞台なので、本作は新鮮に感じてもらえるのではないでしょうか。江戸特有の愛嬌と人情を感じることができると思いますよ。

おすすめポイント

この作品は、昔の日本を感じてみたい、または、日本人の感性を改めて感じてみたい、という方におすすめです。

出てくる和菓子がどれも個性的で、ネーミングも素敵です。最初に出てくる「桜羊羹」も、ぜひ味わってみたい! と思うような和菓子。和菓子に対する説明も丁寧なので、どんなお菓子なのか想像しながら読むのも楽しいです。

セリフの文体が江戸っ子口調なのが楽しい、リズム感の良い文章です。過去に何があったかの説明もわかりやすい挿入の仕方で書かれており、話の流れをとらえるのが難しくありません。

時代小説は読むのが難しそうで……という方でも挑戦しやすいと思いますので、ぜひ手に取って読んでみてくださいね。

読書時間目安:6時間半~7時間程度(384ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。

「吉川英治文学新人賞」って?
公益財団法人吉川英治国民文化振興会が主催、講談社後援の文学賞です。新聞や雑誌、単行本といった媒体に発表された、優秀な小説を書いた新人作家の中から受賞者が選ばれます。1980年創設。

『まるまるの毬』は、2015年の第36回で受賞しました。現在シリーズとして全3冊が刊行されています。

「おいしい読書」をぜひ!

今回は、「おいしい読書」が体験できる小説を5冊ご紹介しました。どれも心温まる作品ばかり選びましたので、朝のひとり時間をほっこり過ごすのにぴったりです。

朝活のカフェの中で読書を楽しんだら、作中のお料理やお菓子も味わってみたくなるかも? 本の世界を、現実でも。きっと楽しいですよ!

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