夢のような世界へ旅に出よう! ファンタジー作品5選
少し肌寒くなってきて、お家でのおこもりも楽しい季節です。
せっかくの自分時間。何をしよう? と思ったら、ファンタジーを読んで不思議な世界へ思いをはせるのはいかがでしょう。
今回は、現代日本から異世界へ突然連れてこられた少女の冒険から、未来が予知できるのに死んでしまったカカシの話、さらには小さな女の子と時間泥棒との戦いを描いた作品まで、幅広くご紹介します。
冬になりそうなこの季節、暖かなお部屋で、ハラハラドキドキの冒険をぜひ楽しんでくださいね。
第5回吉川英治文庫賞受賞「十二国記」シリーズ『月の影 影の海』上・下 小野不由美・新潮社(1992)
【あらすじ】
女子高生の陽子はごく普通の日常を送っていた。しかし連日見ている夢は、異形の者たちに襲われるという穏やかとは言いがたいもの。あの異形たちに追い詰められたらどうなってしまうのかーーそんな思いを抱えていたある日、陽子の前にケイキと名乗る男が現れる。「お捜し申し上げました」と言うその男は、陽子を海の向こう、地図にない国へといざなうが、その道中ではぐれてしまい……(『月の影 影の海』上)。
夢の通りに襲い来る異形たち、人間による裏切り、見知らぬ土地。陽子はなぜここに連れてこられたのか、帰ることはできるのかーー生と宿命が織りなす十二国記シリーズの第1作目。
現代日本から始まる、異世界での冒険を描いた作品です。ファンタジーと言えば西洋的な世界観の作品も多いですが、このシリーズは中華風や日本風で、読み始めは身近でありながら異国であるというギャップに不安感が漂います。なぜ陽子がこの異世界に連れてこられたのかを、ぜひ目撃してください!
おすすめポイント
この作品は、壮大な世界観のなかで繰り広げられる、登場人物たちの運命の物語を味わいたい、という方におすすめです。第1作目から上下巻なので長く感じられるかもしれませんが、このボリュームも納得の内容が待っています。
『月の影 影の海』から始まる「十二国記」シリーズは人気の高いシリーズですが、その要因のひとつは、登場人物たちの奮闘にリアリティがあるところだと思います。
とくにこの『月の影 影の海』は、主人公がごく普通の女子高生なこともあり、その苦悩や起こっている事態への反応に共感しやすいのです。その苦しみの果てにある結末を、ぜひ読んで体験してみてほしいと思います。
記事公開時点で10作品ある「十二国記」シリーズは完結していない作品なので、これからの展開もリアルタイムで楽しめます。『月の影 影の海』が気に入ったら、ぜひほかのエピソードも読んでみてください。この世界観に夢中になれますよ!
ちなみに、1991年出版の『魔性の子』という前日譚もあります。個人的にはこれを読むのと読まないのとでは深みが変わると思っているので、こちらもぜひ!
読書時間目安:上下巻合計で7時間~8時間半程度(上巻278ページ・下巻267ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「吉川英治文庫賞」って?
公益社団法人吉川英治国民文化振興会主催、講談社後援の文学賞です。5巻以上あるシリーズものの大衆小説が対象で、2016年に創設されました。
『月の影 影の海』から始まる「十二国記」シリーズは、2020年の第5回で受賞しました。1992年に講談社x文庫から出版されたのが最初で、現在は講談社と新潮社からも出版されています。2002年にはアニメ化もされました。
第5回新潮ミステリー倶楽部賞受賞『オーデュボンの祈り』 伊坂幸太郎・新潮社(2000)
【あらすじ】
伊藤は、コンビニ強盗に失敗し、警察から逃げている最中だった。しかし途中で意識を失い、不思議な島、外界との交流を絶った「荻島」へとたどり着く。そこにいるのは、殺しを許された男、嘘しか言わない男など、おかしな住人たちばかり。その島で崇拝されているのは、未来を見通せるカカシ。しかしある日、そのカカシが無残な姿で殺されているのが発見されてしまう……。
未来を見通せるカカシは、なぜ自身の死を避けられなかったのか。ミステリー作品でありながら、不思議な世界観に浸ることができる伊坂幸太郎のデビュー作。
奇妙な登場人物たちに囲まれながら、起こるはずのない殺人の謎を追う本作。たった数日間の物語なのですが、時間が進むごとに謎が増え、読む手が止まらなくなります。奇妙な島なのになぜか居心地の良さを感じてしまう、不思議なファンタジー兼ミステリーとなっています。
おすすめポイント
この作品は、日常なのに非日常、そんな奇妙な世界観の作品を読んでみたい、という方におすすめです。世界設定としては現代日本の仙台沖に浮かぶ島、ということになっているので、もしかしたら本当にそんな場所があるのかもと思うのも楽しみのひとつです。
主人公は、“無職となり銀行強盗をしてしまう”という、モラルに反するもののそんな人もいるかもしれない、と思えるような存在です。島の住人も、奇妙なのにどこか身近に感じるような存在で、それもまた不思議な読み応えの作品となっています。
その一方で、読みやすい文体で語られるシビアな現実は、鋭く胸を打ちます。漢字がやや多めですが、ふりがなも多めなので、すらすらと読むのを的確にサポートしてくれます。
登場人物たちの心情も物語のキーになるので、どんな思いを抱えているのか、あれこれと想像力を働かせながら読むのもおすすめです。
現実感があるのに常識が通じない。そんな不思議な世界に、ぜひ浸ってみてくださいね。
読書時間目安:6時間~7時間程度(464ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「新潮ミステリー倶楽部賞」って?
新潮社主催の、長編ミステリーが対象の公募新人賞です。1996年から2000年までの全5回実施され、受賞作品は単行本化されました。
『オーデュボンの祈り』は、2000年の第5回で受賞しました。2004年にラジオドラマ、2009年に漫画化など、多方面にメディア展開されました。
第46回産経児童出版文化賞受賞『カラフル』 森絵都・文藝春秋(1998)
【あらすじ】
死んだはずのぼく。しかしその魂が流されていく途中、突然天使が現れて、「おめでとうございます、抽選に当たりました!」と、笑みを浮かべた。プラプラというその天使の話によると、時々抽選で当たった魂にだけ、再挑戦のチャンスが与えられるという。その再挑戦の内容は、現世にホームステイし、自身が犯した罪の内容を思い出すこと。そんなぼくのホームステイ先は、小林真という名の少年の体でーー?
死後、やり直せるとしたら。そんなもしもが叶ってしまった少年の大きな罪とは? 再挑戦のその先にあるのはーー。
ひとりの少年が、自分やホームステイ先の家族など、多くの人々と向き合っていく過程を描いた作品です。犯した罪のゆえに輪廻の輪に戻れないはずが、自分の罪を思い出すというミッションを成功させたら、ホームステイ先の体から昇天して輪廻の輪に戻ることができる……。そんな状況下で、読者も主人公と一緒になって自分や周囲の人々と向き合うことができるでしょう。
おすすめポイント
この作品は、生きるということ、そして自分の周囲の人々と一緒になって生活するということを真剣に考えたい、という方におすすめです。出だしから主人公が死んでいるという衝撃的な展開ですが、ほかの人の体を借りてもう一度人生をやり直す、ありえない「もしも」を体験できる作品です。
ファンタジーは、物語を通してありえないことを体験できるものですが、これはファンタジーと現実とがうまく同居していて、現実離れした状況も現実的な状況も一緒に体験することができます。
天使であるプラプラの軽快さも、主人公のどこか他人事のような態度も、生と死を扱っている本作を重たすぎないものにしています。文体は軽めで、本を読み慣れていない人でもすらすら読んでいくことができます。
ページに対する文字数も少なめなので、実際のページ数よりも軽い読み口だと感じられると思います。
読書感想文の課題図書として読んだことがある方もいるかもしれませんが、大人になってからもう一度読んでみると、また違った感想を持てるはず。
子どもの頃の記憶を思い出しながら読んでも、大人としての視点を持ったまま読んでも楽しめるこの作品、ぜひじっくりと向き合ってみてくださいね。
読書時間目安:3時間半~4時間半程度(259ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「産経児童出版文化賞」って?
「次の世代をになう子供たちに、良い本を」という主旨で、1954年に創設されました。これまで表彰を受けたのは、翻訳本を含めて約1200作品です。
『カラフル』は1999年の第46回で受賞しました。初版は理論社から出版され、1999年にラジオドラマ、2000年と2022年には実写映画化されていて、2010年にはアニメ映画化、2018年にはタイでも映画化されています。
第13回毎日出版文化賞受賞『だれも知らない小さな国』 佐藤さとる・講談社(1959)
【あらすじ】
小学三年生のぼくは、夏休みのある日、近所の里山へトリモチの材料を取りに出かけていった。たどり着いた小山が気に入ったぼくは、秘密の宝物になったその場所に幾度も足を運ぶようになった。そんなある日、あるおばあさんから「こぼしさま」という小人の言い伝えを教えてもらう。翌年の夏休み、この小山に来た女の子が流してしまった赤い靴をとってあげると、その中には……?
子どもの頃の体験からつながる、大人になってからの決意と冒険。戦後の日本児童文学初の本格的なファンタジー作品。
いま大人になっている世代の、親の世代、そのまた親の世代が見ていたであろう景色を描いた作品です。現代の日本児童文学を生み、日本における児童文学というジャンルを育んだ重要な作品であり、「コロボックル物語」としても知られています。ゆったりとした時間のなかで、大切なものを見つめたいときに読んでみてください。
おすすめポイント
この作品は、懐かしい日本の景色とともに、小さな頃の自分と大人になった今の自分を見つめたい、という方におすすめです。小学校時代から始まり、その頃聞いた言い伝え通りに小さなコロボックルが存在する世界で、大人になってからもその世界を大切にする物語となっています。
子ども向けの作品ということもあり、漢字は少なめです。その代わりページに対する文字数は多めなので、読み応えがほしい人にとっても楽しめる作品でしょう。
子どもの頃に感じていた世界に対する幻想や、夢見る気持ちを、きっと思い出すことができると思います。心を惹きつけるような美しい描写で、自然が目の前に広がるような感覚になることができます。
また、子どもの主人公と一緒になって里山を歩くのは、懐かしい気持ちになるはず。また、大人になってからの主人公と里山に対する思いを共有するのは、忘れていた大切なものを思い出すきっかけにもなると思います。
日本で初めての本格的ファンタジーと言われるこの作品、懐かしさと憧れとともに、ゆったりと読んでみてくださいね。
読書時間目安:3時間~4時間程度(292ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「毎日出版文化賞」って?
毎日新聞主催の、優秀な出版物を表象する文学・文化賞です。1947年に創設され、毎年11月に受賞者が発表されます。
『だれも知らない小さな国』は、1959年に自費出版され、同年に受賞しています。また1960年には日本児童文学者協会新人賞、同年に国際アンデルセン国内賞を受賞しています。「コロボックル物語」シリーズとして全5巻、1つの別巻が刊行されています。
1974年ドイツ児童文学賞受賞『モモ』 ミヒャエル・エンデ・岩波書店(1973)
【あらすじ】
廃墟の円形劇場に住んでいる女の子のモモは、人の話を聞くという特技があった。街に住む人々の口癖は、「モモのところに行ってごらん!」。確かに、モモのところに行ってみれば、不仲になった二人のけんかは静まり、子どもたちの遊びは大盛り上がり。モモがいるところには、温かな関係があるのだった。しかしそんな街に、ある日から灰色の紳士たちが現れ始めて……。
優しくて勇敢なモモと、時間泥棒たちとの戦いを描いた、国際的児童文学の名作。
翻訳作品ですが、海外作品に挑戦してみるなら、児童文学から入るのもおすすめです。優しい語り口とわかりやすい文体で、すっと物語のなかに入り込ませてくれます。また、世界の名作に触れるという意味でも、きっと良い読書体験になるでしょう。
おすすめポイント
この作品は、読書を通して大切なものを見つめたい、海外の翻訳作品に挑戦し始めたい、という方におすすめです。児童小説なので語り口が柔らかく、受け入れやすいのが特徴です。
今回紹介しているのは岩波書店から出ている大島かおり訳のものですが、翻訳であることを感じさせない自然な文体でとても読みやすいです。
主人公モモの特技は一見特別なものではないように思えますが、住人たちが口癖にしている「モモのところに行ってごらん!」という言葉に含まれているのは、紛れもない信頼関係でしょう。
そこに現れた、モモと住人たちの関係を変えてしまう存在、灰色の紳士たちは、大人になった私たちにとって他人事ではないものです。テーマとしている問題は、子どもだけではなく大人にも、いえ、大人にこそ刺さるかもしれません。
児童文学を大人になってから読む楽しさ、また名作に触れる楽しさなど、さまざまな楽しさがあるこの作品、テーマを受け止めるとともに童心に返ったつもりで読んでみてくださいね。
読書時間目安:5時間半~6時間半程度(409ページ)
※ページ数は、文庫版でのページ数です。
「ドイツ児童文学賞」って?
1956年に創設された文学賞で、当初の名称は「ドイツ児童図書賞」。1981年に現在の名称に。ドイツ唯一の国営の文学賞で、優れた国際的児童文学作品に贈られる。
『モモ』は、1974年に受賞しました。世界各国で翻訳され愛読されており、特に日本での人気が高い。発行部数は作品が書かれたドイツに次いで多い。1986年に映画化された折には、ミヒャエル・エンデが本人役として出演するなど話題になった。
不思議な世界を、どうぞ楽しんで
今回は、不思議な世界を楽しめるファンタジー作品を5つご紹介しました。
大人になった今だから楽しめる作品から童心に返って楽しめる作品まで、幅広く取り上げました。ファンタジーという広いジャンルだからこそ叶うバリエーション豊かな世界へ、旅に出てみてはいかがでしょうか。
ありえない世界設定だけれどなんだかわかる。そんな世界を楽しんでくださいね。