演奏にアートと、日頃から芸術にどっぷりと浸かっている筆者utoが、ひとりでゆっくりと楽しめる企画展をご紹介。今回は、人と人をめぐる風景に注目。人を中心に描いた絵画の企画展から、人の生活する街の風景や人がおもう地獄の景色、果ては心の景色まで、幅広くご紹介します。冬へ向かうこの季節に、アートを通してさまざまな景色のあり方をご覧くださいね。

冬へ向かう季節に、アートに込められた景色を見に行く

11月になりました。涼しさも寒さへと移り変わるこの季節、街や人々の姿もだんだんと変わってきていますね。そんななか、アートに込められた風景は、変わることなくいつまでもそこに保存されていることも多いもの。

今回は、変わる季節に見に行きたい変わらない景色を、「人と人を巡る風景」というテーマから厳選してご紹介します。

人そのものから始まり、人が生活する街の風景、地獄から心のなかに至るまで、さまざまな景色をぜひご覧くださいね。

ひとを描く(アーティゾン美術館)

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人は古来より、人を描いてきました。絵画の起源として語られる逸話のひとつに、「ある娘が旅立つ恋人の姿を残しておきたくて、壁に影をかたどって残した」というがものあります。これはギリシアで伝わるお話ですが、18世紀後半から19世紀はじめには、頻繁に引き合いに出されるようになりました。

このお話が事実かどうかはともかく、ヨーロッパの芸術史においては、人を描くことは重要なことのひとつでありました。

エドゥアール・マネポール・セザンヌが描く肖像画を見てみると、そこには画家の技術の粋と新たな表現方法の模索を感じることができます。またピエール・オーギュスト=ルノワールは、人と人との親密な関係を描き、それらは画家の生活を支える糧となりました。

この企画展では、石橋財団コレクションと呼ばれるコレクションのなかから、古代ギリシア陶器に始まり、近代ヨーロッパ絵画など、85点の作品が展示されます。

人が人をどのように表現してきたか、ぜひご覧くださいね。

ひとを描く
会場:アーティゾン美術館 (JR「東京」駅 八重洲中央口 徒歩5分)
会期:2024年11月2日(土)〜2025年2月9日(日)

カナレットとヴェネツィアの輝き(SOMPO美術館)

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都市景観画(=ヴェドゥータ)とは、都市の風景を非常に緻密に、かつ大規模に描いたもののこと。イタリア語で「景観」という意味で、ヴェドゥータを描く画家は、とくに「ヴェドゥティスティ」と呼ばれ、特別なジャンルを築いています。

そんな、単なる風景ではなく、都市を描いたヴェドゥータの巨匠・カナレットを紹介する、本邦初の企画展です。

今回は、スコットランド国立美術館をはじめとしたイギリスのコレクションを中心として、油彩・水彩・版画などで構成されています。カナレットが描いた緻密かつ壮観なヴェネツィアの風景を通して、18世紀における都市景観画=ヴェドゥータと呼ばれるジャンルの成立をたどります。

また、それと同時に、ヴェドゥータの伝統を引き継ぎつつ、ヴェネツィアの新たなるイメージを模索していった19世紀の画家たちも紹介されています。

まるで目の前にヴェネツィアが広がっているかのような絵画を、ぜひお楽しみくださいね。

カナレットとヴェネツィアの輝き
会場:SOMPO美術館(JR「新宿」駅 西口 徒歩5分)
会期:2024年10月12日(土)〜2024年12月28日(土)

Land-scape-お持ち帰りできる風景(慶應義塾ミュージアム・コモンズ)

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本記事を読んでくださっている方のなかには、旅行に行ったとき、絵はがきや写真といった方法で風景をお持ち帰りしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

人々はそうして、実際に風景を見に足を運ぶだけではなく、書物をはじめ、版画や写真、絵画といった方法を用いて、風景を切り取り、保存したり再創造したりすることを楽しんできました。

この企画展では、中世ヨーロッパの写本から見る風景をはじめとして、旅行記が伝えてきた諸国の風景など、7つのテーマから「お持ち帰りできる風景」を巡る旅に出ます。

写本や版画、写真、絵はがきや旅道具など、さまざまに風景を切り取ってきた媒体を通して、人々がどのように風景をお持ち帰りしてきたか、見に行ってみませんか。きっと、風景をお持ち帰りしたくなるはずです。

Land-scape-お持ち帰りできる風景
会場:慶應義塾ミュージアム・コモンズ(JR 山手線/JR 京浜東北線「田町」駅 徒歩8分)
会期:2024年10月7日(月)〜2024年12月6日(金)

ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ(森美術館)

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1911年にパリで生まれ、2010年にニューヨークで亡くなったルイーズ・ブルジョワは、20世紀に活躍したアーティストのなかで、重要な位置にいるアーティストのひとりです。

ルイーズ・ブルジョワは、70年におよぶ活動期間のなかで、インスタレーション(空間や室内にオブジェなどを配置し、その空間全体を作品として体験する、現代アートにおける表現方法のひとつ)や、彫刻、ドローイング、絵画に至るまで、多くの手段を用いて、男女、受動と能動などの相反するテーマに現れる緊張した関係を模索しました。

そうして、無二の造形力によって、対極にあると思われる概念を引き合わせてきました。

ブルジョワの芸術においては、幼少期のトラウマや複雑な出来事が発想の根源をなしています。自身が持つ記憶や感情を共有できる形へと昇華し、希望と恐怖、不安と安らぎなど、一見対立している感情や心理を表現し続けました。その表現のあり方は、現代のおおくのアーティストに影響を与えています。

この企画展では、自らを「サバイバー」と認識していたブルジョワの、生きることへの意思を感じることができます。ときに人々が直面する、戦争や災害、疫病といった「地獄」のような経験を克服する、大きなヒントを得ることができるでしょう。

ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ
会場:森美術館(東京メトロ日比谷線「六本木駅」1C出口 徒歩3分(コンコースにて直結))
会期:2024年9月25日(水)〜2025年1月19日(日)

平澤篤 回顧展 ~Time piles up in the soul 時は魂の中に積もる~(森の美術館)

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写実的な絵画で知られる平澤篤。映像や音楽といったイメージや幻想的な世界のなかに、家族や日々の品々を同居させた画風が特徴です。

ハリストス正教会の信徒でもあり、幼少期からイコン(キリスト教における聖像画。英語ではアイコン)などの絵画に触れていたことから、その作品には宗教的な空気が漂います。しかし、そこには現実に即した取材や体験が存在し、そのリアリティによって、浮ついた印象ではなく確かにそこにあるという印象を受けることができます。

モチーフにするものにもこだわりを持っていて、マリオネットを自作したり、絵に使えそうなカメラや時計は、なんと修理までしてしまうほど。

平澤篤自身がこよなく愛した家族をモデルとしていることも特徴のひとつです。そういう関係性でしか見られない表情や、我が子への慈愛に満ちたまなざし。家族を大切に想う心が、多くの作品を生み出す原動力ともなりました。

今回の企画展では、前期と後期に分けられた白日会出品作品を中心に、約70点が展示されます。「魂の中に積もった時間」という景色を見に、ぜひ足を運んでみてくださいね。

一つ前で紹介したルイーズ・ブルジョワ展の「森美術館」ではなく、こちらは「森の美術館」での開催なので、お気をつけください。

平澤篤 回顧展 ~Time piles up in the soul 時は魂の中に積もる~
会場:森の美術館(つくばエクスプレス「流山おおたかの森」駅 西口 徒歩20分)
会期:前期・2024年10月2日(水)~2024年11月10日(日)
   後期・2024年11月13日(水)〜2024年12月22日(日)

冬の入り口に、景色のアートを楽しんで

今回は、さまざまな景色に触れる企画展を5つご紹介しました。

涼しさから寒さへ移りゆく季節です。アウターも用意して、暖かくしてお出かけくださいね。

ほかの月の企画展が知りたい方はこちら

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