見終わったあとモヤモヤする映画が大好きな筆者が語る映画連載【シネマ・グレイ】。今回は、母からの過剰な愛が悲劇を招く、韓国の問題作『毒親 ドクチン』(2023)を紹介します!(文:紺野ミク)

《自己紹介》
『singles』をご覧の皆さんこんにちは!モデルをしながらライターとして記事を書いている「紺野ミク」です。こちらでは映画大好きな私がオススメする作品を紹介しています。好きなジャンルは考察系、クソ映画、鬱映画など見終わった後にモヤっとする映画が大好きです(笑)独断と偏見で楽しくツッコミながら紹介していくのでよろしくお願いします☆

韓国で社会問題となる“毒親”をテーマに描いた『毒親 ドクチン』

(C)2023, MYSTERY PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

母からの過剰な愛に苦悩する娘の心の闇を描いた、韓国発のミステリー『毒親 ドクチン』(2023)。

日本では「モンスターペアレント」や「毒親(どくおや)」という言葉で広く認知されていますが、韓国では現在、子供への過剰な教育やしつけを強いる親の存在が、大きな社会問題となっています。

本作はその名の通り、子供にとって“毒なる親”というべき存在を、母親、娘、周囲の人間それぞれの視点で描きながら、息つく間もない展開で観るものを釘付けにする韓流ミステリーです。

監督は、日韓合作ホラー映画『オクス駅お化け』(2022)の脚色や『覗き屋』(2022)の脚本を担当するなど、若くして才能にあふれたキム・スイン氏。本作で満を持しての長編映画監督デビューをしました。

出演には、韓国で国民的TVドラマ「ストーリー・オブ・マーメイド」の主役を務めたチャン・ソヒが毒親となる母へヨンを。娘ユリ役は、モデルとして活躍したあと、Netflixドラマ「ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え」で注目を集めたカン・アンナが見事に演じています。

重すぎる母の愛と娘の苦悩

成績優秀で優等生の高校生ユリと、誰よりもユリを愛する母ヘヨン。周囲からは理想の母娘と羨望のまなざしを向けられていますが、じつは、ユリはヘヨンの度を越した教育と執着にずっと悩まされていました。

ユリが受ける模擬試験当日、いつものように車で送ったのですが、ユリは突然姿を消しました。

その後、なんとユリはキャンプ場で遺体となって発見されたのです。

捜査を担当するオ刑事は自殺の可能性が高いと考えますが、ヘヨンは「娘が自殺なんてするわけがない」と、頑なに認めようとしません。

(C)2023, MYSTERY PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

そんななか、担当教員ギボムがユリを呼び出していたことを知ったヘヨンは、ギボムがユリに何かしたのではないかを疑って裁判を起こします……。

ユリの記憶から明らかになっていく真実

本作は、冒頭にキャンプ場でユリが遺体で発見されたところから始まり、「なぜこうなったのか?」を、過去と現在を交互に映し明らかにしていく構成となっています。

母からの重すぎる愛と、それを受け止めるのに疲れ壊れてしまうユリ。
ユリが自殺に至るまでの彼女の想いや苦悩が見ていて本当に辛いです。

(C)2023, MYSTERY PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

はたから見たら普通の反抗期の女子高生だったかもしれません。けれど、一度だけユリが本気で母に気持ちを爆発させるシーンがあります。おそらくここがユリの最後の心の叫びでした……。

それすら母に受け入れてもらえなかったユリは諦めの表情を見せ、心を閉ざし、着々と自ら命を絶つ準備をするのです……。

教師と生徒の信頼関係

ユリは学校では優等生で成績優秀。ユリが自殺を考えているなんて誰も知りません。

しかし、担任のギボムはユリの異変に気づいていました。

(C)2023, MYSTERY PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

ただ、ユリが抗うつ剤を持っているのに気づいたとき、“これは母親のもの”と動揺して話すユリの言葉を信じたうえに「最近の子はメンタルが弱いからユリのじゃなくて良かった」と追い討ちをかけます。

ここでもユリは諦めの表情を見せ「じゃあ私がうつ病になったら、それは私のせいなんですね」と、心を閉ざしてしまいます。

その後、何度も元気がない様子のユリを見たのに、ギボムは彼女を助けることは出来ませんでした。
気づかなかったと自分に言い聞かせながらも、どこか面倒なことを避けようとしていたのではないでしょうか。

毒親と気付けない傲慢さ

本作で何より厄介なのは、

ヘヨンは自分が毒親であり、ユリの自殺の原因であると認めないところです!

(C)2023, MYSTERY PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

こんなに愛しているのに、全部娘の幸せのためにしているのに、と押し付けていた行為すべてが娘を自殺に追い込む原因だった。

その事実を受け入れることが出来ず、へヨンの怒りは担任のギボムや、クラスメイトのイェナに向けられます。

イェナは、歌手としてデビューを控えた練習生でありながらも素行が悪く、自分とは正反対で優等生のユリを嫌っていました。

(C)2023, MYSTERY PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

しかし、徐々に心を開いていった2人。ユリは、母親の監視から解放されイェナと行くカフェや、漫画喫茶で束の間の楽しさを覚えていました。

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しかし、それもユリが亡くなった原因の一つと考えるへヨン。素行の悪い子と遊んだからだとイェナを責め立てるんです。

もう見ていてへヨンの身勝手さにイライラが止まりません!!(ストレスMAX)

家庭環境の連鎖

へヨンは離婚しており、ユリと父親はたまに会う仲です。優しそうな父親ですが、へヨンがユリに過干渉なことを分かりながらも強く止めようとはしません。

せめて父親に頼れる環境だったら……へヨンの過剰な愛を止めていたら、この悲劇は起きなかったかもしれません。

そして、毒親となる親の特徴として非常に多いのが、

“自分も同じことをされて育ってきた”

というもの。

ヘヨンも幼少期から親に抑圧されて育ってきた1人で、その内容も明らかになっていくのですが、自分がされてきて辛かったことをなぜ娘に繰り返してしまうのか?

けれど本人はまったく逆なんです。

自分が親に愛されなかったから、娘には全身全霊の愛を与えて育てたい。
そんな気持ちだからこそ毒親は自分がしてきたことが子供にとって正しいと疑いません。

そしてユリが亡くなったあと、その過干渉は息子へ向けられるのです。

(C)2023, MYSTERY PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED

個人的な感想ですが、ヘヨンはこの先も変わることはないと思います。

心のどこかで自分が原因と分かっても、それを認めてしまったらユリへの愛が嘘になってしまう。自分の過去も否定してしまう。

だから、自分の愛は正しいと信じ続けて、これからも同じことを息子にしていくはずです。

日本や韓国だけでなく、全世界でこの問題に悩む子供は多くいるはずです。だけど、子供にとって親がすべての年齢のうちは、それが当たり前と思い我慢することが正しいと思ってしまいます。

“毒なる親”が自分の身勝手さに気づくこと。
“与えた愛は相手にとっても愛”だという、傲慢な考えを変えてくれることを願っています。

最後の最後まで胸が締め付けられる悲しい物語ですが、絶対に観てほしい作品です。

『毒親 ドクチン』、週末のお供にいかがですか?

【公式サイトはこちら】

【毒親 ドクチン 予告動画】

画像: - YouTube youtu.be

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画像: 韓国で社会問題となる“毒なる親”をテーマにした衝撃作!『毒親 ドクチン』【シネマ・グレイ File.045】

紺野ミク|Miku Konno

モデル・女優などで活躍中の他、2017年からはライターとしても活動。連載を持ちコラム執筆をするなど多方面で活躍中。お酒・映画鑑賞が大好き。

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