“おひとりさま“とは、現代社会の新たな生き方。それは孤立ではなく、“自立”と“冒険”。新しい場所に飛び込み、新たな経験を積み、自分自身を磨き成長させることを指します。本特集では、そんな「おひとりさまライフ」に注目。今回は、“自立”と“冒険”を体現した女性が主人公の本をご紹介します。

おひとりさまを体現した主人公

気鋭のミステリー作家、米澤穂信によるミステリー小説『王とサーカス』。

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2015年6月に発行された本書は、同年の「週刊文春ミステリーベスト10」、2016年の「ミステリが読みたい!」「このミステリーがすごい!」といったミステリーランキングで、国内部門1位となった話題作です。

この作品は、2004年発行の『さよなら妖精』の精神的続編とも言える一冊で、『さよなら妖精』に登場した大刀洗万智(たちあらい・まち)を主人公としています。

『王とサーカス』のあらすじ

画像: 『王とサーカス』のあらすじ

本書は、2001年6月にネパールの宮殿で実際に起きたナラヤンヒティ王宮事件に端を発し、大刀洗万智が殺人事件を追うものとなっています。

彼女はフリーの記者であり、知人から依頼されたアジア旅行記事の事前取材のためにネパールを訪れました。

大刀洗万智は、ネパールの首都・カトマンズでの宿泊先で、サガルという少年と知り合います。サガルのガイドで取材を進めようとしていたとき、王族8人が皇太子によって殺害されてしまうという、前代未聞の事件が発生してしまいます。

大刀洗万智はこの事件について取材を開始します。事件当日に警備として配属されていた軍人、ラジェスワル准尉に取材を願い出ると、彼はそれを拒否。そしてその翌日、大刀洗万智はラジェスワルの遺体が空き地に倒れているのを発見します。その背中には、「INFORMER」(密告者)の文字がありました──。

どんな問題が起きようと自分の力で解決していく意志の強さ

この作品は、作者である米澤穂信が、「遠い国の話を自分がどう受け取るのかという主題」に向き合いたいと思って書いたと言っています。

その思いを書き切った作品であるとともに、主人公の大刀洗万智も、その問いと真正面から向き合っています。

画像: どんな問題が起きようと自分の力で解決していく意志の強さ

大刀洗万智の、悩みながらも凜とした思考と行動力は、まさに“自立”と“冒険”。

ほかの登場人物たちからもさまざまな問いを投げかけられながらも、しっかりと自分をふるい立たせ、他者と自分、双方を尊重した立場をとります。

さまざまな話が交錯していくなかで、自分を保つ大刀洗万智は、本当にかっこいい! と思わせてくれます。

殺人事件の嫌疑をかけられながらも取材を続ける行動力も、状況に絶望しない冷静さと、現実に立ち向かっていく勇気のあらわれです。

この物語で描かれる事件の真相は本当に胸が苦しいものなのですが、大刀洗万智が、苦悩し、それでも真摯に向き合う姿によって、読者も折れることなく真相に向き合うことができるでしょう。読者をも支えることのできる強さを持った主人公は、じつはとても珍しいと思います。

ですがそんな大刀洗万智も、弱さをもつ少女時代がありました。

前作からは、自分の意思を主張できるという成長を遂げた

画像1: 前作からは、自分の意思を主張できるという成長を遂げた

大刀洗万智は、『さよなら妖精』の頃は、主人公である守屋路行(もりや・みちゆき)の相棒的な女の子として登場しており、泰然としているものの他者に与える印象はややきつめな女の子でした。

読者からの印象としては、自分の考えを見透かされるのを嫌うようなところがあると感じられる女の子で、ユーモアもありながら、ちょっととっつきにくいものでした。

画像2: 前作からは、自分の意思を主張できるという成長を遂げた

『さよなら妖精』では、外国から来た少女マーヤがどこへ帰ったか? を追うのですが、登場人物たちのなかで一番に答えにたどり着いたのはこの大刀洗万智です。

『さよなら妖精』の結論はここでは明かせませんが、大刀洗万智はこの答えについても、最後の最後にようやく口を開いただけでした。

自分の考えを素直に話すことがほとんどなかった大刀洗万智。問いを投げかけられても、かわしてしまうことばかり。

『さよなら妖精』における彼女の弱さを感じる部分はここで、現実に立ち向かうときの姿勢が、やや未熟に思えるのです。もちろん当時からしっかりしているのですが、立ち向かうというより、受け止めきれないから黙っている、という一面がありました。

少女時代には、おそらく大きな問いを投げかけられても、自分の意見を述べたりはしなかったでしょう。しかし大人になった大刀洗万智は、問いに立ち向かい、問いによって揺らぐ自分にも立ち向かいます。

画像3: 前作からは、自分の意思を主張できるという成長を遂げた

新聞社を経てからフリーの記者となり、単身外国に取材におもむくところから始まる『王とサーカス』は、こんな大人になりたい! と思わせる場面の連続です。

記者といえば、さまざまな人たちとの対話を通じて記事を書く職業です。そんな仕事のなかで、あまりにも大きな問いにぶつかったときの大刀洗万智の反応は、等身大でありながらとても気高く感じられます。

遠い国で起こった、あまりにも大きな事件。それにどのように向き合うのかということを、これほどまでに描ききった作品は珍しいでしょう。

自分自身との向き合い方を考えたくなったら、読書も選択のひとつ

画像: 自分自身との向き合い方を考えたくなったら、読書も選択のひとつ

ひとりの時間をどのように過ごすかということは、自分との付き合い方をどのようにするか考えることと似ています。

そんな時間に、読書はいかがですか?

今回ご紹介した本書の精神的前作である『さよなら妖精』と、『王とサーカス』、『真実の10メートル手前』は「ベルーフ」シリーズと呼ばれていて、これらは連続が可能です。

自分時間の読書の足がかりに、ぜひ参考にしてみてくださいね。

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