芸能界の闇と葛藤を描いた傑作『PERFECT BLUE /パーフェクトブルー』
(C)1997MADHOUSE
『千年女優』(2001)、『パプリカ』(2006)などで国内外で高い評価を受けたアニメーション監督・今 敏(こん さとし)が手がけたデビュー作『PERFECT BLUE /パーフェクトブルー』(1998)。
竹内義和の小説「パーフェクト・ブルー 完全変態」を原作に、アイドルから女優に転身した女性を襲う悪夢のような出来事を描いたサイコスリラーです。
現実と幻想が入り混じる演出やアイドル業界の闇、人間のアイデンティティ崩壊など、観る者の精神を揺さぶるストーリーが衝撃を与え、1998年の劇場公開から25年以上たった今でも、日本のみならず海外でも傑作として語り継がれています。
また、アニメ映画としては珍しく国内でのレイティングはR-15指定、その他ほとんどの国では18禁となっています!
性的な描写やヘアヌード、流血などショッキングなシーンも多いことから、“大人のアニメーション映画”としても当時話題となりました。
アイドルから女優への転身
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アイドルグループ「CHAM」に所属する主人公 霧越 未麻は、あるミニライブを最後に突如グループ脱退を宣言! 女優への転身を計ります。
未麻は事務所の方針に流されつつも、かつてのアイドルからの脱却を目指すと自分を納得させ仕事に打ち込みます。
初出演のドラマ「ダブルバインド」ではセリフが一言だけの脇役から始まり、さらには過激なシーンを演じることとなります。そこから次第に女優としての軌道に乗り始める未麻。アイドル時代からは考えられなかったような仕事をこなしていきます。
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しかし、人気とは裏腹に未麻は現状への不満を募らせ、アイドル時代の自分の幻影さえ見るようになっていきます。
そんななか、彼女の関係者を狙った連続殺人事件が発生。
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ネット上では未麻の名を騙って詳細な日記をつづる人物が現れ、彼女は次第にストーカーの影に怯えるようになっていくのです……。
現実と虚構の交錯
アイドルを辞め、女優としてのキャリアを積むために、未麻は過激な仕事も受けるようになっていきます。
そのなかで彼女の精神が崩れていく原因の一つとなったのが、「ダブルバインド」というドラマでレイプシーンを演じたことです。
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作品内で未麻は、レイプをきっかけに別人のようになってしまう女性を演じました。
この「ダブルバインド」という言葉には、心理学用語で「二重拘束」といった意味があり、矛盾する2つのメッセージを同時に受け取ることで、どちらの選択肢を選んでも心理的な負担や混乱が生じる状態のことを指します。
ダブルバインドが発生すると、自分の考えが定まらなくなり、幻覚・幻聴などで“現実と虚構の交錯”が発生します。
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つまり未麻は、
自身が演じたダブルバインドを現実で体感してしまうようになるのです!
アイドルだった未麻と女優としての未麻……。相反する2人の自分がダブルバインドとなったことで、「これが自分のやりたかったことなのか?」「この選択は正しかったのか?」と自問自答し、どんどん自分の精神を追い詰めていきます。
ただのサイコスリラーではない!
『PERFECT BLUE /パーフェクトブルー』は一見、純粋なアイドルが女優に転身したことで、芸能界の闇に飲まれておかしくなってしまうサイコスリラーですが、未麻の周りで起きる殺人事件や、ストーカー被害など、さまざまな要因が入り乱れて展開していきます。
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さらに、物語後半では「現実」「夢」「劇中のドラマ」がそれぞれ交錯していき、どれが本当の未麻なのか? この殺人は誰の犯行なのか? と、しっかり犯人を考察するサスペンス要素も含まれていきます。
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作品の至るところに重要なピースが散りばめられており、たびたび登場する鏡や未麻の部屋のシーンなどから推察する面白さも、『PERFECT BLUE /パーフェクトブルー』が長年傑作と言われる所以でもあります。
そして、予想もしない衝撃のラスト!
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最後の最後まで何が真実か分からなくさせることで、監督が伝えたかった“現実と虚構”を視聴者の私たちも目の当たりにすることになるのです。
46歳という若さでこの世を去った、今 敏監督の不朽の名作『PERFECT BLUE /パーフェクトブルー』、週末のお供にいかがですか?
【PERFECT BLUE /パーフェクトブルー 予告動画】
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