《自己紹介》
『singles』をご覧の皆さんこんにちは!モデルをしながらライターとして記事を書いている「紺野ミク」です。こちらでは映画大好きな私がオススメする作品を紹介しています。好きなジャンルは考察系、クソ映画、鬱映画など見終わった後にモヤっとする映画が大好きです(笑)独断と偏見で楽しくツッコミながら紹介していくのでよろしくお願いします☆
実際に起きた“無差別銃乱射事件”を映画化『ニトラム/NITRAM』
(C)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
1996年4月28日(日)、オーストラリア・タスマニア島の世界遺産にもなっている観光地 ポートアーサー流刑場跡で実際に起こった“無差別銃乱射事件”を映画化した『ニトラム/NITRAM』(2021)。
通称「ポート・アーサー事件」として知られるこの一件は、無差別大量殺人であり、35人の死者に加え23人の負傷者を出し、オーストラリア近代史における最悪の銃乱射事件とされています。
そして、そんな大事件の犯人であるマーティン・ジョン・ブライアントを主人公として描かれたのが本作『ニトラム/NITRAM』なのです。
『マクベス』(2015)や『アサシン クリード』(2016)などで知られるオーストラリアの俊英ジャスティン・カーゼル監督は、事件を引き起こした当時27歳だった犯人の青年が、なぜ銃を求め、いかに入手し、そして犯行に至ったのかを、事実に基づき実録映画として描き出しています。
(C)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
本連載の13回目でも紹介した『DOGMAN』(2023)でも主演を演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズが主人公ニトラムを演じ、2021年 第74回カンヌ国際映画祭で男優賞、第54回 シッチェス・カタロニア国際映画祭で主演男優賞を受賞し、その圧巻の演技力を世間に知らしめました。
また作品自体も、2021年 オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞で作品賞・監督賞など8部門を受賞しています。
“ニトラム”と呼ばれた孤独な青年
1990年代半ばのオーストラリア、タスマニア島。観光しか主な産業のない閉鎖的なコミュニティで、母と父と暮らす青年マーティン。
(C)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
幼いころから周囲になじめず孤立し、同級生からは本名MARTIN(マーティン)を逆さ読みした「NITRAM(ニトラム)」という蔑称で呼ばれ、バカにされてきました。
※英語圏でNITRAMの“NIT”は「ばか者」「間抜け」などの批判的な意味を持つスラング。
何ひとつうまくいかず、思い通りにならない人生を送るニトラム。
ある日、サーフボードを買うために始めた芝刈りの訪問営業の仕事で、犬や猫に囲まれながら屋敷で1人暮らしをしているヘレンという女性に出会います。
(C)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
芝刈りや犬の散歩を頼まれているうちにニトラムは少しずづ心を開き、2人の距離は縮まっていきました。
唯一の理解者を見つけ喜んでいたニトラムですが、とある出来事をきっかけに彼の孤独感や怒りは増大し、精神は大きく狂ってしまうのです……。
なぜ犯行に及んだのか?
物語は、幼いニトラムが火遊びで火傷をし、テレビでインタビューを受けている映像から始まります。
そして、大人になったニトラムの映像……そこでも彼は火遊びをし、隣人に怒鳴られています。
(C)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
幼いころから大人になるまでの彼の人生がどうだったのかは描かれていませんが、怒られて車を蹴り飛ばす姿や、執拗に何度もクラクションを鳴らす様子、感情の起伏が激しいことから、彼が何らかの疾患を持っていることは明らかです。
しかし、母親は病院で抗うつ剤をもらうだけで、医者に専門病院でのカウンセリングを勧められても受けさせようとはしません。薬を飲ませ、冷たく叱るだけ。
父親は優しいものの、二トラムに心から寄り添ってくれるわけではありません。
(C)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
(C)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
家族のなかにも本当の居場所はなく、友達もいない。外に出れば変な目で見られることもある。
ニトラムは、
自分がほかの人とは違うこと、そして孤独だということをちゃんと分かっています。
そのため、両親や周囲の言動で徐々にフラストレーションが溜まっていく様子が伺えるのです……。
何か一つの出来事が犯行のきっかけになったわけではなく、ニトラムを取り巻く環境すべてが、いつしか彼のなかで「周りを変えなければいけない」「全部消えてしまえばいい」という極端な思考にさせてしまったのかもしれません。
(C)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
火遊びをしていた幼いころにもっと寄り添ってあげていたら……周りとは違うと気付いた時点でカウンセリングや然るべき機関で治療を受けさせていたら……もしかしたらこんな悲劇は起きなかったのかもしれないと思うと、とてもやるせない気持ちになります……。
銃社会への規制と見直し
ニトラムは、幼いころ父に買ってもらったというエアライフル(圧縮空気や不燃性ガスを動力源として弾丸を発射する空気銃)をよく庭で使っていました。
しかし、日々のストレスが溜まるにつれ本物の銃を持ちたい気持ちが強くなったニトラムは、犯行を決意したとき、カバンにお金を詰めて銃販売店に向かうのです。
(C)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
街に銃販売店があるなんて日本なら考えられないですよね? ふらっとコンビニに行く感覚で銃を買うことが出来てしまうなんて……。
そして、何の免許も持たない二トラムに大量の銃と弾を売る店主。
まさかこの銃でこれから無差別殺人を行うとも知らずに……。
(C)2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
オーストラリア史上最悪とも言える「ポート・アーサー事件」。
この事件を機にオーストラリアの銃規制に見直しが求められ、事件が起きた12日後、オーストラリアの全州が銃規制法に合意。
64万丁を超す銃器が政府に買い取られ破棄されたとのことです。
しかし、この法律はどの州においても完全には順守されておらず……、
現在オーストラリアでは事件が起きた1996年よりも多くの銃が所持されている
という、何とも悲しい現状となっています。
身を守るために銃を持つ地域がある一方で、度々起こる無差別銃乱射事件……。果たして銃は世の中に必要なのか否か……。
銃社会について、皆さんはどう考えますか?
そして、この事件を知らなかった方にはぜひこの映画を観てほしいと思います。
『ニトラム/NITRAM』、週末のお供にいかがですか?
【公式サイトはこちら】
【ニトラム/NITRAM 予告動画】
- YouTube
youtu.be