見終わったあとモヤモヤする映画が大好きな筆者が語る映画連載【シネマ・グレイ】。今回は、アウシュビッツ収容所を舞台に、衝撃的テーマで公開当初から話題となった『関心領域』(2023)を紹介します!(文:紺野ミク)

《自己紹介》
『singles』をご覧の皆さんこんにちは!モデルをしながらライターとして記事を書いている「紺野ミク」です。こちらでは映画大好きな私がオススメする作品を紹介しています。好きなジャンルは考察系、クソ映画、鬱映画など見終わった後にモヤっとする映画が大好きです(笑)独断と偏見で楽しくツッコミながら紹介していくのでよろしくお願いします☆

衝撃的なキャッチコピーで話題となった『関心領域』

(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013)で映画ファンを唸らせたイギリスの鬼才 ジョナサン・グレイザー監督が、作家マーティン・エイミスの小説を原案に手がけた作品『関心領域』(2023)。

“アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族がいた”

という衝撃的なキャッチコピーで、公開当初から話題となり、第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリ、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞しました。

第2次世界大戦中、ナチスドイツによる各地でのユダヤ人殺戮。歴史にも残る最大級の犠牲者を出し、「ホロコースト」の代名詞として知られる「アウシュビッツ強制収容所」

ナチスは、アウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域「The Zone of Interest(関心領域)」と名づけていました。

今作の舞台は、ユダヤ人を中心に多くの人々を死に至らしめたアウシュビッツ強制収容所の隣の屋敷に住む家族の暮らしを描いています。

出演は『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015)のクリスティアン・フリーデル、主演作『落下の解剖学』(2013)が本作と同じ年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したサンドラ・ヒュラー。

これまたA24がとんでもない作品を送り込んできましたよ! 考察せずにはいられない『関心領域』、じっくり紹介していきます!

アウシュビッツ収容所の隣で暮らす家族がいた

(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

青い空、広い庭園、誰もが笑顔で、子どもたちの楽しげな声が聞こえてくる日常。時は1945年、アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らすある家族がいました。

(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

そこに住むのは、収容所の所長 ルドルフ・ヘスと、その家族たちです。ルドルフは収容所の最高責任者の司令官であり、多くの部下を抱えています。

妻のヘートヴィヒと子供たちとの豪華な暮らし。ここだけ見れば、普通の幸せな家族の姿かもしれなせん。しかし壁を一枚隔てた隣には、

大勢の人々が虐殺され、死体が燃やされ続けるアウシュヴィッツ収容所があるのです。

そして収容所からは毎日怒号や悲鳴のような声が度々響き渡り、煙突からは煙がもくもくと上がっています。これがどういうことかわかりますよね?

しかし、ヘートヴィヒや子供たちがそのことを気にする様子はまったくありません……。

関心領域外であるということ

上記にも書いたように、隣から聞こえてくる音に家族がリアクションをとる様子は描かれていません。だけど、聞こえていないわけではないというのが分かる描写が物語の至る所に散りばめられています。

例えば、ヘートヴィヒの母親が娘を訪ねて初めて屋敷に来たとき、夜になると聞こえてくる音の恐怖に耐えられなくなり娘に何も言わず逃げ帰ります。つまり「初めて家に来る人にとっては耐え難いほどの音」であるということ。

そしてもう一つ気になるのは、ヘス家の赤ちゃんがずっと泣いているんです。これ、最初は赤ちゃんだからただ泣いているって思ってたんですが、あまりに泣き声のカットが多いので途中でハッとしました……。これは「赤ちゃんでさえも異常な音を察知している」ってことを表しているんだなと。

ということは、ヘートヴィヒやほかの家族が無反応でいるのは、彼女たちにとって、

アウシュビッツ収容所で起こることは関心領域外

の出来事だからなんです。あえて気にしない。気づいてるけど、豪華な屋敷で幸せに暮らす自分たちにとっては無関係だと。

最初はその音にも苦しんでいたかもしれない。だけど次第に慣れ、それが当たり前になっていく。

(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

自分が着ている高価な毛皮や美しい宝石は、ユダヤ人から剥ぎ取り、殺し奪ったものだと気づいていても、この生活は失いたくない。そんなヘートヴィヒの静かな残酷さの描写がとにかく怖かったです……。

だけど、ヘスの姿を見ていると時間が経つにつれ分かってくるんです。

人は完全に無関心でいることなどできないのだと……。

固定カメラのみで描く“視聴者への無関心”

本作は固定カメラのみで撮影されています。自然な姿を見せるため、あらゆるところにカメラを設置し、隠しカメラのような角度で物語が進行していきます。

(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

さて!!ここで『関心領域』、最大のネタバレをします!!

  

※知りたくない方は見ないでください

↓↓↓

本作『関心領域』は……、

↓↓↓

  

最後まで観ても何も起こらず終わります!!

そう、何も起こらないんです。

キャッチコピー通り、ただアウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族がいたという日常が流れる。ただそれだけ。収容所の中で何が起きているのかも映ることはありません。

観ている私たちに映画としての起承転結など与えない。何もない。この日常を見たいなら見れば? と言わんばかりの放置。

(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

そう、この作品は私たちを関心領域外に置いてるんです。

映画の冒頭でも、画面は真っ暗のままけたたましい音だけが流れ続けます。その時間約3分。え? テレビ壊れた? って本気で思いました。(笑)エンドロールまでの絶妙な時間もすごく心がザワザワします。そして最後まで何も起こらず終わる。

いや、ずっと何かが起きているこの映画には、あえて何かを描く必要がないのです。

この日常を観てどう捉えるかは私たち次第。つまらない? 盛り上がりに欠ける? そんな感想を持ったのであれば、それは私たちが勝手に関心を持ち過ぎた結果なんです。

だけど!! 本当にラスト、本当に一瞬、私たちを関心領域に入れてくれる瞬間があるんです。
その瞬間、私たちは1945年の彼らと会うことになります。

これがどういうことなのか、それはぜひ皆さんの目で確かめてください。

週末のお供に『関心領域』、いかがですか?

【関心領域 予告動画】

画像: - YouTube youtu.be

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画像: 幸せとは何か? アウシュビッツ収容所の隣で暮らす家族を描いた衝撃作!『関心領域』【シネマ・グレイ File.033】

紺野ミク|Miku Konno

モデル・女優などで活躍中の他、2017年からはライターとしても活動。連載を持ちコラム執筆をするなど多方面で活躍中。お酒・映画鑑賞が大好き。

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