こんにちは、恐竜おねぇさんこと生田晴香です。ティラノサウルスの子どもだと思われている「ナノティラヌス」は、本当にティラノサウルスの子どもなのか? それとも別の恐竜なのか? 長いこと議論されていましたが、ついに2025年10月31日(金)に決着がついたので、発表します。

連載コラム「生田晴香、恐竜と生きる」。福井恐竜博物館 公認恐竜博士、古生物学会友の会・恐竜倶楽部メンバーでもある自他共に認める恐竜ラバーのタレント生田晴香が、恐竜の素晴らしさを隅から隅まで語り尽くします。壮大な歴史とドラマ、未解明の不思議が交差する魅惑の恐竜ワールドへ、ようこそ! - singles編集部

この化石はだれ?

ナノティラヌスという恐竜は、ティラノサウルスの子どものころの恐竜だと思われていました。「ティラノサウルスだろう派」と「違う恐竜だろう派」で喧嘩もしつつ、いろんな研究が発表されても、最終的にわからない状態だったのです。

しかし、最初からティラノサウルスだと思われていたわけではありません。歴史があるので、まずはご紹介します。

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もともと、ナノティラヌスの化石は、1942年に魚の専門家であるデイヴィッド・ダンクルさんによって頭骨が発見されたことが始まりです。

画像: 大絶滅展にて撮影

大絶滅展にて撮影

ダンクルさん……そう、有名な古生代デボン紀のダンクルオステウスは、ダンクルさんにちなんでいます。

発見された頭骨は、すでにいるゴルゴサウルスだろうけど、種類がちょっと違うなぁということで、「ゴルゴサウルス・ランセンシス」と新種として名付けられ、ゴルゴサウルスの若いころか小さいころのだと思われていました。

そこからまた変わりつつ、1988年にはこれは新しい恐竜だということになり「ナノティラヌス・ランセンシス(Nanotyrannus lancensis)」と、新属新種として名付けられました。

【ここで豆知識】
・フクイラプトル・キタダニエンシス
・ティラノミムス・フクイエンシス
・フクイティタン・ニッポネンシス
・フクイサウルス・テトリエンシス
これらは、恐竜の名前に地名を入れがちな福井の恐竜の名前(学名)です。エンシスというのは、〜で発見されたという意味で、場所を指します。
なので、「ナノティラヌス・ランセンシス」のランエンシスいうのはアメリカのランス、ランス層で発見された……という意味になるのですが、ナノティラヌスはランス層で発見されていません。

大変ややこしいのですが、アメリカのヘルクリーク層で発見されました。ランス層ではティラノサウルスなどが発見されていますね。

話は戻り、それから今度はティラノサウルスの子どもではないかと考えられるようになり、今度は2021年、ヘルクリーク層から「ジェーン」(あだ名)が発見されます。

展示会で全身骨格を見たとき、「足長っ」って思ったのを覚えています。

全長約7メートルのジェーンもまた、「ティラノサウルスの子どもだろう」と言われるようになりました。ほかの標本も調べられるようになって、なんだかんだ……。

結局、似ているところもあるけど、違うところは成長に伴うからかもしれないしわからないね、という感じになりました。

ブラッディ・メアリ

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2006年ヘルクリーク層から、トリケラトプスとティラノサウルス類が戦ってるかのような決闘化石が発見されました。

ヴェロキラプトルとプロトケラトプスの格闘化石のように、いかにも取っ組み合いしてるわけではありませんが、デュエルしていたかのように見えます。

画像: 恐竜科学博にて撮影

恐竜科学博にて撮影

そのティラノサウルス類は、ブラッディメアリというあだ名が付きました。

化石は誰のものか問題で法廷で争うなど、これもまた映画化できるくらい話が長くなりそうなのですが、これはティラノサウルスではなくナノティラヌスだということがわかりました。

で! ブラッディメアリの骨を切ってみたところ、成体だということがわかったのです。これが成体ということは、ティラノサウルスではないことになります。

ほかには何の違いがあったのか?

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ナノティラヌスとティラノサウルスの前あしを比べてみたところ、大きさ重さが全然違うのに手のサイズは同じくらいでした。

ティラノサウルスより約2倍長い骨があります。もし、ナノティラヌスがティラノサウルスの子どもだったとしたら、大人になるにつれて骨が縮んでいったということになるので、それは基本的にありえないですよね。

そして、歯の数も違いました。

ティラノサウルスの上の歯は11〜12本。下の歯は12〜13本。ブラッディメアリは上の歯が16か17、下の歯が17か18と、ティラノサウルスよりも多いのです。大人になるにつれて歯の数はこんなに減らないですよね……。

鼻先の歯の形も違っていて、ティラノサウルスの歯にはステーキナイフのようなギザギザのセレーションがついているのに対し、ブラッディメアリはセレーションがなかったのです。

ほかにも違いがあり、ナノティラヌスはティラノサウルスではなく、ナノティラヌスだということがわかりました。

ちなみに、ジェーンはナノティラヌスだけど別の種、同属別種とになりました。

論文はこちら

まとめ

ヘルクリーク層で発見されたのに、ランス層で発見されたかのような名前をしているところからすでにややこしさMAXのナノティラヌスでしたが、ようやくナノティラヌスはティラノサウルスではなくナノティラヌスだと決まりました。

  • ホロタイプ(最初の標本)&ブラッディメアリ→Nanotyrannus lancensis
  • ジェーン→Nanotyrannus lethaeus(新種)

ブラッディメアリが全身完璧な保存状態だったおかげで決着がつきました。すんごい化石ですよ、ブラッディメアリ……。

では、ティラノサウルスの子どもはどんな感じなんでしょうね?

画像: 格闘技を習う生田晴香

格闘技を習う生田晴香

では!

画像: ナノティラヌス論争、ついに決着! ティラノサウルスの子どもか別種か、その真相は?

生田晴香 | Haruka Ikuta

恐竜タレント。TV、CMのほかモデルとして活躍中。福井恐竜博物館の公認恐竜博士で恐竜検定所持。恐竜トークショー、クイズ、鳴き声コンテスト審査員。古生物学会友の会&恐竜倶楽部メンバー。恐竜のうた「ダイナソーDANCE」監修。実は元あやまんJAPAN。

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