本作は、美術鑑定士として成功を収め、自身が開催するオークションも高評価で、世界的な名声を得た主人公ヴァージルの恋物語だ。有能ではあるが極度な潔癖性と女性恐怖症のため、金銭的には恵まれたものの、初老の年齢になるまで女性を知らなかった男が初めて出会う心のときめきが、メインストーリーになる。
ただし、表向きは・・。

ヴァージルは凄腕の美術鑑定士。オークション開催で巨額の富を得ていた。
何も知らなければ奇妙な体験から生まれるラブストーリー
女性恐怖症のヴァージル(ジェフリー・ラッシュ。『パイレーツ・オブ・カリビアン』で日本でも有名になった)は、自身が開催するオークションで”不正”を行うことで格安で、本物の美人画を集め、それを眺めることで性的な欲望を満たしていた。
その方法は簡単で、オークション会場に自分のパートナーである画家のビリー(ドナルド・サザーランド。『24』で有名になったキーファー・サザーランドのご尊父である)を潜ませ、価格と落札タイミングを操作するのである。ビリーはもともと一流の画家になることを夢見ていたが、早くからヴァージルに才能のなさを指摘され、彼の不正の”共犯者”として働いている。

不正で集めた名画の女性たち。

ドナルド・サザーランド演じるビリー
そんなおり、ヴァージルに奇妙な依頼が舞い込む。
資産家の両親が亡くなったため、家財や美術品をオークションで処分して欲しいという依頼なのだが、その依頼人は電話だけでコンタクトしてくる。決して姿を見せようとしないのだ。
そんな依頼の仕方に嫌気がさすヴァージルであったが、美術鑑定士特有の好奇心が災いして、依頼を断りきれない。しかも、その電話の主クレアの声が若い女のそれであったこともあって、徐々に彼女の顔を見てみたいという欲望に囚われ始めるのである。

トラウマのせいで屋敷に引きこもる広場恐怖症の依頼人に惹かれていく初老の鑑定士
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密かに身を隠して覗き見してしまうヴァージル

奥の部屋から現れたクレアは、思っていた以上に美しく若々しい女性だった
実はクレアは広場恐怖症。
人と会うことが怖くて屋敷から一歩も外に出られない。
しかし姿は意外にも美しい女性のそれだった。ヴァージルはミステリアスな境遇と、潔癖性である自分にも通じる彼女の心の闇に共感し、徐々にクレアに惹かれていく。ビジネスを超えて、彼女に恋してしまうのだ。
思ってもみない結末・・
ヴァージルは自分よりはるかに年下の女性に恋することに戸惑う。戸惑いながら、古い工芸品の修繕を依頼した、若い技術者ロバートにアドバイスを仰ぎながら、クレアの心を掴む努力をし始める。

天才的な技術者ロバート。女の扱いも上手い。
やがてヴァージルは、クレアの気持ちを引き寄せることに成功し、二人は結ばれる。
彼はクレアとの結婚を望み、クレアと暮らすための準備を始める。同時に、ヨーロッパ中でオークションを行うことでクレアとの時間が奪われることを恐れ、オークション鑑定士としてのキャリアを捨て、二人の生活を最優先することを決意するのである。
そして、最後のオークションを大成功させ、長年のパートナーであるビリーとも別れを告げ、愛するクレアが待つはずの自宅に帰ったヴァージルは、思ってもみなかった光景を目にする。
この映画は初老の男を突然襲う恋のときめきとゆらめきを描いているようで、その実、本当は上質のミステリーなのである。
ヴァージルはすべてを失ってでもクレアとの恋を優先するのか。
そもそもクレアとの恋は本物なのか。クレアとはいったい何者なのか。
どんな運命のいたずらが、ヴァージルに、遅咲きの恋の感情を与えようとしたのか。
僕はこの映画をミステリーであるとも恋愛映画であるとも知らず、予備知識を全く持たずに観た。だから純粋に監督の”罠”にハマったとも言える。
ただ大抵の観客は、事前にこれがミステリーであることを知っているはずで、その意味では最後の最後に何かが起きること自体は予見しているはずだ。
だが僕は、それができなかった。だから、何か裏がありそうだ、とは中盤から感じつつも、それは表向きの恋愛映画的な悲劇を受け入れるための準備でしかなかった。
この映画評を読んだうえで映画を見る方は、ミステリーとしてのどんでん返しや謎解きが最後にあると知ってみることになる。
僕とは違う、後味を楽しんでもらいたい。