シュルレアリスムの巨匠、ルネ・マグリット展が開催されている。
日本でも大人気ルネ・マグリット。その名は知らずとも、その絵はどこかで見かけたことがある方が多いのではないかと思う。
マグリットが描く、まるで夢の中にいるような奇妙な世界

Golconda, 1953 by Rene Magritte
www.renemagritte.org大勢のダークコートを着た男性達が空に浮かんでいる。
その様子はまるで空から降る雨のよう。空中に浮かぶための装置のようなものは手にしておらず、まるで夢の世界に足を踏み入れたかのような不思議な気分になる。
そう、この世界こそがまさにシュルレアリスムの世界。シュルレアリスムとは、芸術の形態、表現の一つで、現実を無視した世界、まさに夢の中のような世界を描く芸術運動である。
その作品とは異なり、マグリットの生涯は実に平凡なものであった。

The Lovers II, 1928 by Rene Magritte
www.renemagritte.orgダークブルーの壁の部屋で、ヴェールをまとった男女がキスをしている。「The Lovers II」と名付けられたこの作品に対して、軽い恐怖を抱く人も多いかと思う。マグリットの作品には晴れやかな明るさは感じられない。どの作品も、いつもどこかに影のような暗さが見え隠れしている。このような奇妙な世界を描くマグリットは、一体どのような人物なのだろうか。
マグリットの生涯は、波乱や奇行とは無縁の平凡なものであった。ブリュッセルでは客間、寝室、食堂、台所からなる、日本式に言えば3LDKのつつましいアパートに暮らし、幼なじみの妻と生涯連れ添い、ポメラニアン犬を飼い、待ち合わせの時間には遅れずに現われ、夜10時には就寝するという、どこまでも典型的な小市民であった。残されているマグリットの写真は、常にスーツにネクタイ姿で、実際にこの服装で絵を描いていたといい、「平凡な小市民」を意識して演じていたふしもある。彼は専用のアトリエは持たず、台所の片隅にイーゼルを立てて制作していたが、制作は手際がよく、服を汚したり床に絵具をこぼしたりすることは決してなかったという。
意外にもその生活は平凡なものであったようだが、彼の心の奥深くまでは知ることが出来ない。
むしろ、平凡な生活を送っていたという事実は、彼の描く独特な世界の奇妙さを引き立てているかのようにも思える。
日本では13年ぶりとなる回顧展

The Art of Living, 1967 by Rene Magritte
www.renemagritte.org今回の回顧展は、東京では実に13年ぶりの開催となる。ベルギー王立美術館、マグリット財団の全面的な協力を得て、世界10か国以上から代表作約130点が集まり、ブリュッセルの美術学校時代や卒業後に制作された初期作品まで目にすることができる。
この規模の回顧展が次にいつ日本で開催されるかはわからない。マグリットのファンならずとも、多少なりとも芸術に興味がある人ならば絶対におとずれるべき回顧展である。

The Castle of the Pyrenees, 1959
www.renemagritte.org東京、新国立美術館での開催期間は2015年6月29日まで。その後は京都の京都市美術館で2015年7月11日から10月12日まで開催される。
美術館デビューにもぴったりのマグリット展。非現実的で奇妙な世界を、たっぷりと味わっていただきたい。