ファッションは服を超越する(Fashion Beyond Cloths)

元フランスVOGUE誌編集長 カリーヌ・ロワトフェルド
mademoiselle-movie.comカリーヌ・ロワトフェルド。元フランスVOGUE誌の編集長であり、ファッション業界のミューズ。本作はカリーヌの挑戦を描くドキュメンタリーだ。
彼女がVOGUEの職を辞して、自らの名前を冠した新しいファッション雑誌の創刊にチャレンジし始めたところから、映画は始まる。実に57歳の再出発である。
雑誌の名前は「CR」。カリーナのイニシャルであり、カリーナと30年以上生活を共にするパートナーのイニシャルでもある。
カリーヌがVOGUEを離れたことで、VOGUEを発刊しているコンデナストとは相当な軋轢があったようだ。圧力に負けて、カメラマンやスタイリストなど、多くの協力者が彼女の元を去った。しかし、そうした困難が彼女にかえってクリエイティブな発想を与えた、という。
カリーヌ伝説の幕開けは、“ポルノ・シック”というスキャンダラスなスタイリングで、ファッションの歴史を変えたこと。絶賛と非難の両方を浴びて、彼女は一躍時の人となった。グラマラスなこのスタイルを、カリーヌ自身は挑発的だがエレガンスだと主張、“エロティック・シック”と呼んでいる。
その過激で大胆なディレクションとは裏腹に、彼女のキャラクターはとてもチャーミングで、常にユーモアに溢れ、仕事仲間への敬意を忘れない。そして、編集長という立場でありながら、スタイリストとして現場に赴き、誰よりも積極的に働く姿は、リーダーとしても、まったく斬新なポジションでその地位を確立させた。トム・フォードが「理想の女性像」、カール・ラガーフェルドが「ミューズ」とリスペクトを捧げたこと、そしてフランス版「VOGUE」誌の編集長という肩書は、彼女にとってプロローグにしかすぎなかったのだ。現在、ハーパスバザーのグローバルファッションディレクターとしても活躍している彼女の今後の動きにも、ますます目が離せない。
そもそも彼女の名を世に知らしめたのは、ポルノ・シックと賞賛と中傷が入り混じったような迎え入れ方をした彼女のディレクションにあった。そのときも、カリーヌはかえって意思を貫き、ヌーディーな男女を多用した過激な写真を使い続けた。彼女に言わせれば、ポルノではなく、エロティック・シック。下品ではなく、きわどさであり、エレガンスを失わないかぎりそれがセクシーであると主張したのだ。妨害されればされるほど燃える、反骨精神の持ち主なのだ。
中産階級(ブルジョア)の生まれだという彼女は、衣装や持ち物に対する両親の厳しいしつけを受けて育ったという。だから成人してファッション業界に入ってからはシャネルのバッグのような”ブルジョア”なプロダクトを、敢えて”過激”な装いに合わせる。彼女をよく知る者の証言によると、彼女はネオクラシックであり、パンクなのだと。
その反骨精神が、50代後半(2015年3月現在は60歳)のカリーヌをして、スリットの入ったタイトスカートとピンヒールを身につけ、いまだにファッション業界のミューズと呼ばれる美しさを保たせている。
ちなみに彼女の息子はNY在住だが、訪れてきたカリーヌを見たアパートの駐車場係にこう言われた。「まさしくMILFだな」と。
MILFとはMother I'd Like to Fuck(やりたくなる”他人の”母親)の略で、日本で言えば美魔女であるとか美熟女に相当する英語のスラングだ。
このことを息子に伝えられたカリーヌは、思わず苦笑していた。

この写真がFacebookにあがったとたん、24時間アカウントを停止されたという。
mademoiselle-movie.com
雑誌と本の間を狙いたい
当初予算の2倍以上に膨れ上がるコストを憂いながら、カリーヌたちは雑誌の創刊を急いだ。
写真のクオリティにこだわるカリーヌたちはできる限り、ファンタジーを具現化した写真を使いたい。雑誌と書籍の中間を狙う。それがカリーヌの目標だ。
しかし、編集ディレクターからは見開きページ(編集会議時点で8ページ)が多すぎる、テキストページが少なすぎれば中身がない雑誌だと思われると主張する。広告はすでにすべて売れている。限られたページ数の中で、なにを妥協して、なにを削るかを締め切りギリギリまで討議する。
華やかな世界の中で、行っていることは僕たちがしていることと変わりがない。実は地味で単調でひどく地道な作業の繰り返しだ。
考えてみれば僕たちもまた、雑誌と新聞の間を狙っている。毎日更新するが、ニュースを追うのではなく、コンテンツを作っている。
ちなみに雑誌「CR」創刊号は発売2週間で完売。その後は年に2回の発刊になっているそうだ。


CR Fashion Book
www.crfashionbook.com
タイトなスカートとピンヒールで自分を鼓舞する。
映画としてみると、ストーリーは特にないわけで、ある意味ヴィダル・サスーンのドキュメンタリー映画に近い。面白かったか?と言われれば、そうでもないと答えるだろう。
しかし、為になったか?と言われれば、Yesと答える。
少なくとも、クリエイターとしての”気分”はいま、最高潮に盛り上がっているからである。
なにかモノづくりに従事している人であれば、ぜひ見たほうがいい。
中途半端に腐っている間はないと、また文字通りAge is just a number(年齢なんてただの数字さ)という言葉を実感できるだろうと思う。