PALMは、女性の作者が描いているが女性向けの漫画ではない。男も女も引きずり込む、独特の世界観を持った作品だ。
PALMは1983年に連載が開始された、長寿作品だ。累計200万部が発行されている。ストーリーは緻密で、初期の頃のエピソードが、まるで全て最初から織り込んでいたように現在のストーリーにつながってくる。無理矢理ではない、読み手が注意深くないとうっかり見過ごしかねない自然さで入ってくるのだ。
孤高の登場人物たちのタペストリー
ストーリーは複雑だ。ざっくり言えば幼少期からの虐待であったり、不条理な不幸や悲劇による漆黒の孤独であったり、そうしたさまざまな暗い過去を抱えた登場人物たちが、運命の糸が紡がれていくように集い、つながっていく。
主人公のジェームズ・ブライアン(コミックの表紙のイケメン)は尋常ならざる天才児でありマフィアの御曹司だが、父親に厭われて執拗に命を狙われた過去を持つ。ジェームズの良き友であるカーターは、実母に憎まれ、愛した者がことごとく悲惨な死を遂げてきた過去を持つ、元医者で今は探偵業を営む。
ジェームズと24時間以上離れていると体調に異変を起こして、死に至るリスクを抱えるアフリカ生まれの美青年アンディは、ジェームズに出会う前は人間社会になじめずライオンと暮らしていた。
三人が出会い、ともに生活するようになったことで、強い信頼と恋愛にも似た友情が生まれる。そして心には平安が訪れるのだが、逆にそのことで彼らの周囲にはより大きな悲劇が生まれる予兆が見え始めるのだ。
30年以上続く長いストーリーをここで紹介することは、大変な字数を必要とするから、今はしない。
PALMの魅力は、全て読んでみないと本当には掴めないからだ。逆に言えば、すべてを読んで初めて、その凄さが理解できる、絶対的な価値を持つ長編作品なのである。
作者の獣木野生さんは、いったいどんな人なのだろうと、とても興味がある。いつかは【Singlesな女たち】の一人としてインタビューをお願いしたいと思う相手の一人、いや筆頭かもしれない。
生まれながらの超天才ジェームズ・ブライアン
多くの【Singlesな男たち】【Singlesな女たち】が登場する本作品の中で、ひときわ輝くのが、主人公のジェームズ・ブライアンだ。彼は初めて聞くような言語でも、聞いているだけで数日で完璧にマスターし、複雑な現代経済学や統計学も数時間専門書に取り組むだけで理解してしまう天才だ。容姿に恵まれ、長身で、運動能力も抜群である。
これを聞いただけで多くの男たちに妬まれ憎まれてしまいそうだがw、実際に彼は肉親であるマフィアのドンにも、その卓越した才能を恐れられ、何度も殺されかける。また、強くてたくましい狩りのターゲットを求める殺人鬼のような輩からも目をつけられる。とにかく目立ちすぎていいことがない。
それでもジェームズは、人を傷つけたり、憎んだりすることは絶対にしない。他の誰よりも暴力の世界で生き抜いてきたのに、周囲を思いやり、人を愛し、愛されることの本当の価値を知っている。欲はなく、常に同じ黒い服を着ている。今流行りのノームコアの代表的な人物だ。
彼は表情が少なく、大声で笑うこともない。
いつも穏やかで、見た目には冷静だ。
しかし、実は誰よりも愛情深く、慈悲深い。
暗い予感に慄きながら立ち向かうジェームズ
そんなジェームズだが、降りかかる多くの困難を払いのけるうちに、やがて死に至った父親の遺産としてシンジケートと、そのシンジケートが抱えている多くの企業コングリマリットを引き継ぐことになる。
ジェームズは、反社会的な組織を解散するか売却し、手元には社会貢献を果たせそうな優良企業だけを残して健全化するのだが、これが彼を畏れ、彼を憎む敵対勢力を集結させる結果を生む。強すぎる力を得てしまった彼を排除しようとする、カウンターパワーを最大化してしまうのだ。
最新刊である『PALM 37 TASK Vol.2』では、ついに彼の仲間であり、最近の主要登場人物である一人が非業の死を遂げ、さらに他の一人にも恐ろしい敵が忍び寄る。
全体的にはジョークやユーモアも溢れ、楽しく読める作品であるが、善意の人たちを襲う暗い意思の存在が、最新刊では強く滲み出しすぎて、息苦しくなってくる。
今後ジェームズが、自分の大切な人たちをどうやって守っていくのか。
一年に1-2冊しか出ない作品の大団円を、最後まで見続けていきたいと思う。